もしも今とは違う仕事に就いていたら、何をしていただろうか。子どものころに憧れていた仕事をしていたら、ものの見方が少し変わっていたかもしれない…。そう思うこともあるけれど、簡単に転職するわけにもいかない。悩ましいところだ。
そんな人のために、ちょっと珍しい仕事をお試しできるのが「仕事旅行社」のサービスだ。現在、コピーライターやパティシエのほか、芸者、整体師やトリマー、漁師や日本語教師などユニークな職場を体験することができる。
店主からコーヒーの奥義を直々に教わる
仕事旅行社が提供しているのは、正式な「職場体験」。プロの仕事場にお邪魔するからには、それなりの真剣さが求められる。その代わり、本来なら関係者しか入れない舞台裏にも潜入させてもらえるし、その道のプロに直接レクチャーしてもらえる。
料金は1万円から1万5000円程度で、都内を中心に1日で終わるものが多いが、中には2日間みっちり使うものもある。今回は4時間ほどで体験できるカフェの「バリスタ」の仕事を選んでみた。
体験場所は、東京・吉祥寺にオープンして1年の「リュモン コーヒー スタンド」。スペシャリティーコーヒーをブレンドせず「シングルオリジン」のスタイルで提供する人気のお店である。吉祥寺のカフェといえば、女の子の理想の職場のひとつだろう。
店主の小泉直樹さんは32歳。学生時代のアルバイト経験から、いつか自分の店を持ちたいと考えていたそうだ。青山のカフェで修業中にスペシャリティーコーヒーに魅せられ、これをコーヒー通ではなく一般層へ広げたいという気持ちが高まり、1年前に独立・開業した。
「バリスタとは単にコーヒーを入れるだけではなく、自分がおいしいと思うものをお客さまにコーヒーというかたちで表現する仕事。そして世の中へ広めていくことだと思っています」(小泉さん)
厨房の仕事について一通り説明を受けた後、まずは濃さの違うコーヒーをテイスティングさせてもらう。普段は何気なく飲んでいるコーヒーだが、並べて飲み比べてみると豆の量で味わいが全く異なるのが分かる。
運営者「旅行気分で仕事の旅に出てほしい」
小泉さんのお手本の後、豆をマシンへセットしてコーヒーを抽出する。香ばしい匂いが目の前でふわっと漂った。続いてラテアート体験。エスプレッソのカップを傾け、泡立てた温かいミルクをやさしく注ぎいれる。ハートマークは失敗して小さくなってしまったが、ラテの香りは高く、深い味わいには変わりない。
このほか、接客業務から道具のメンテナンスまで、一連の業務を教えてもらえる。体験に来るのは「20代から30代のコーヒー好きな社会人」。趣味で毎日おいしいコーヒーを飲みたい人もいれば、いつか小泉さんのように開業したくて話を聞きに来る人もいる。
普段とは違う場所で違う仕事を教わることで、まるで知らない土地に旅をしたような気分になる。仕事旅行社を企画・運営する田中翼さんは、「仕事には刺激と魅力が満ちあふれている」という。
「世の中には、本当に面白い仕事がたくさんある。そんな体験を旅するような手軽さで、みんなでシェアできればいいなと思い、この会社を作りました」
最近人気のコースは、お花屋さんや眼鏡職人、占い師など。1日の体験で習得できる技術は多くないが、「子どものころにやってみたかった憧れの仕事」を一度体験してみることで、モヤモヤを晴らす効果もありそうだ。
自分の知らないところで、知らない仕事をしている人がいることを知るだけでも、世の中が広く豊かになった気がする。もしいまの仕事にマンネリを感じているなら、プロフェッショナルの仕事を体験する機会を作ってみてはどうだろうか。(池田園子)