「休暇を取ることは義務である」と題した異色の記事が、専門誌に掲載されている。筆者は名古屋大学で教鞭をとる労働法学者の和田肇教授。
これまで学生には「年次有給休暇の取得は、労働者の権利である」と教えてきたが、権利を行使しない弊害は社会的に大きいので、これからは義務と捉えなおして取得を促進すべきではないかと提言している。
「年休未消化」は労働社会を貧弱にし、雇用創出を阻む
提言を掲載したのは、労働政策研究・研修機構が発行する「日本労働研究雑誌」という専門誌。2012年8月号は「日本人の休暇」という特集を組んでいる。
和田氏は「年休権不行使」の弊害を3つあげる。1つ目は「休暇が貧弱な雇用社会では、労働社会もまた貧弱となる」可能性があること。年休の未消化は、文化の創造や自己啓発の機会を労働者から奪い、また労働者が放棄していることを意味するという。
2つ目は、「雇用の創出を阻んでいる」可能性があること。労働者全員がほぼ100%年休を取得すれば、雇用創出の効果は相当なものになることが予想される。大量の年休未消化は、若年者労働者に安定した良好な雇用の場を提供するという政策に反する。
3つ目は、「電力エネルギー消費」削減の観点からだ。7月中旬から8月に事業場一斉休暇を取得させれば、夏場の電力ピークの消費量を抑えることができる。名古屋大学なら一斉休暇で1日500万円の経費削減になるという。
和田氏は、特に「雇用創出」と「電力削減」は企業のモラルだけに依るのではなく、
「年休取得率が90%に満たない場合には、国の雇用対策への協力として、未達成分を納付金として支払わせる」
といった方法を取り、労働基準法にも「使用者は、労働者との調整を経た上で、年次有給休暇を計画的に付与しなければならない」とうたうべきだという。
「クビになりたくないので有休が欲しいなんて言えない」というのが、いまの労働者の置かれた現実だ。しかし今後は、有意義な休暇を取らせて有意義に働かせるという新しい発想の会社が生まれてきてもいいのではないか。