「国際教養大」という大学がある。04年に秋田県に設立された新興の公立大だ。AIUという略称も含めれば、一度くらいは名前を聞いたことがあるという人も多いのではないか。それくらい、最近の躍進は素晴らしい。
日経新聞の「人材育成力(人材教育で注目している大学)ランキング」では堂々の首位だし、昨年末に週刊ダイヤモンドが特集した「就職力(就職に強い大学)ランキング」では一橋、京都大に次ぐ第3位である。
ちなみに就職内定率は掛け値なしのほぼ100%で、就職先にも商社や広告代理店など、誰もが知っている人気企業が顔を出す。もちろん就職だけがすべてではないけれども、こと就職に関しては、すでに東大をはじめとする既存校を超えたと言ってもいいかもしれない。
授業の英語化、海外留学の義務化でビシビシ鍛える
国際教養大がこれだけ評価される理由は、実にシンプルだ。授業の英語化や海外留学最低1年間の義務化などグローバルに舵を切りつつ、全寮制によって4年間勉強に専念させる環境整備を徹底したことだ。同校を4年間のストレートで卒業する人は少数派というから、その厳しさのほどが分かるだろう。
従来の日本企業は、新卒一括採用で20代前半の若者を採用することに注力し続けてきた。終身雇用で40年ほど雇う以上、教育は社内でOJTすればよく、人材はポテンシャルがあって若ければそれで良かったからだ。
だが国際教養大のように、留年をいとわずビシビシ尻を叩く大学を評価するということは、企業が人材評価の軸足を「ポテンシャル」から「即戦力性」に移しつつあるということがよくわかる。
ところで、企業がポテンシャルから即戦力にシフトするようになった理由はなんだろう。自分自身の身に置き換えて考えると理解しやすい。
仮に、夏休みに1週間ほどリゾートに出かけるとしよう。1週間しか滞在しない旅行先で、車や鍋を買う人がいるだろうか。きっと99%の人は素直にレンタカーを借り、(多少割高だとしても)ディナーはホテルのレストランで済ませるだろう。短期しか利用しないと分かっている以上、初期投資に金をかけるメリットがないためだ。
即戦力採用の先に待つ「労働市場の流動化」
企業の採用スタンスにもまったく同じことが言える。企業が研修にかける時間は、企業がどのくらいの期間、その人を雇う覚悟があるかに比例する。
40年以上雇う覚悟があれば、社内で手間暇かけて育てる意義もあるだろう。だがそれだけの余裕も意義もないと考えるなら、なるべく最初から戦力となっている人を選ぶだろう。
即戦力採用の先に待っている未来は、労働市場の待ったなしの流動化なのだ。
ひょっとすると、先の見えないことに対して不安を覚える人もいるかもしれない。でも、多くの人にとって、これは喜ぶべきニュースであるはず。ポテンシャルを伸ばすことは誰にもできないが、実務能力ならいくらでも本人次第で伸ばすことができるからだ。
「大学全入時代」が叫ばれる中で躍進する国際教養大こそ、日本の進むべき方向を指し示していると感じるのは筆者だけだろうか。(城繁幸)