「自分の小銭で立て替え」が生んだ公私混同
ここで、このような不正の「機会」をみすみす作ってしまった運転手の料金授受業務の問題点について指摘しておきたい。
交通局の調査報告書によれば、利用者が運賃を払い過ぎたり、つり銭器が故障したりした場合などに、運転手が手払いで返金をすることがある。そのような場合に備えて、運転手には少額の現金が支給されているが、返金用現金の使用状況は厳格に管理されていなかった。
また、手元の現金がなくなっても、運転手は追加支給を申請しにくい雰囲気があったそうだ。そうなると、他の顧客の運賃や自分の小銭でやりくりせざるをえない状況が生じやすくなる。
バスの運賃は200円前後と少額であり、「とりあえず」とか「これくらいなら」と安易な取扱いをしてしまいやすい。さらに、日々の収入額は流動的なため「多少の誤差は分からないだろう」という心理にもなりやすい。
ルールがあいまいだと、現金の扱いがいい加減になる。そこに「とりあえず自分の小銭で立て替える」という行為が加わると、公私のけじめもつかなくなり、今回のような事件が発生しやすくなる。塵も積もれば山となる。
交通局では様々な再発防止策を打ち出しているが、まずは、「現金を手で受け取る行為」の原則禁止を運転手に徹底すべきだ。そのうえで、補助券による返金の推進、つり銭器の更新による故障の防止などにより、「手で受け取らざるを得ない状況」の発生を極力防ぐ取組みが必要である。
加えて、例外対応を認める場合と処理方法を明文化し、例外処理を申告しやすい環境を整えることも重要だ。(甘粕潔)