たかがボールペンくらいで「横領」とは大げさですか!?

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   会社の費用で購入した事務用品は会社の資産であり、私用で使ってはいけないのが原則だ。しかし、使っているうちに、いつの間にか自分のモノのようにしてしまうことがある。また、自分でお金を出していないために無駄に使ってしまいがちである。

   ある会社では、文具などを購入するための消耗品費が膨らんでいることを不審に思って調べてみたところ、おかしな使い方をしているケースがゴロゴロ出てきたという。

会社のカネでドリンクやスナック注文する人も

――広告代理店の総務です。遅まきながら経費削減に取り組んでおり、いろんな無駄を見直しているのですが、いま問題視されているのが「消耗品費」です。

   原因を調査する中で、おかしな動きが見えてきました。ひとつは、ボールペンやノートを非常に多く持ち出す特定の営業マンがいることです。

   会議や外出のたびに新しい在庫を取りに行くので、営業部の消費量が多くなっています。そこで営業部長に状況を報告したところ、部員のA君から電話が入りました。

「あのー、さっき部長から『お前、会社が買ったモノ、家にたくさん持ち帰ってるだろ。それって横領、泥棒だからな!』ってすごく怒られたですけど。なんか総務から言ったんですか。それって言い過ぎじゃないですか?」

   パワハラを訴えるような調子で、ことの重大さを理解せず、反省もしていない様子です。

   もうひとつおかしいのは、消耗品の補充状況です。実は数年前までは総務でまとめて購入し、申請に応じて各部署に渡していました。しかし、いまでは各部署が補充の速い通販サイトで注文し、月末に総務に請求が来るようになっています。

   この内容をいま一度調べたところ、部署によっては通販サイトでドリンクやスナックを注文し、一部の人たちで飲み食いしているようです。手をつけるのも億劫な状況ですが、こういうときはどういう視点で改善したらいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
問題社員を処分する前に、会社の管理体制を見直すべき

   一部に問題社員がいるようですね。しかし彼らを処分する以前に、会社の管理がずさんすぎることが原因という見方が否めないでしょう。消耗品の利用と発注のルールをあらかじめ決めて、きちんと周知することが先決です。その上でルールを破り、繰り返しの注意にも応じない社員がいれば処分するしかありません。

   A君の言葉から「消耗品といえども会社の財産である」という考え方が浸透していないことが分かります。日常業務で最低限必要な文具以外は、各社員から回収することから始めましょう。きっと驚くほど出てくるので、それを見せて当面は「中古」の消耗品を有効活用させます。

   また、通販サイトでの新規発注ルールを決め、飲食物の発注を禁止するならルール化し、総務でも毎月の発注状況をチェックすべきです。無断持ち出しや不正発注を処分するのは、そのような管理をしっかりした上で行うべきです。もちろん消耗品の私物化は横領ですし、会社が弁償を求める場合もあると思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
割れ窓理論で「だらしなさ」を根絶すると無駄も減る

   消耗品の持ち出しや怪しい発注は、悪意をもって行われている場合よりも、往々にして「だらしない」使い方をしている場合が多いのではないでしょうか。「割れ窓理論」という言葉がありますが、建物の窓ガラスが割れたままにされている地域では、凶悪犯罪が増えるという考え方のことです。小さな私的利用を放置しておくと「このくらいはいいだろう」という気持ちが芽生え、それを放置しておくとさらに大きな横領につながることもあるわけです。金額も「ちりも積もれば山」となります。問題行為は厳しく注意し、時には処分すべきです。

   その予防には「労働環境の整理整頓」が基本になります。乱雑なオフィスと、整理整頓されているオフィスでは、消耗品の管理状況や「このくらいはいいだろう」という心理状況にも違いが出てきます。「使ったものは元に戻す」「ゴミはゴミ箱に捨てる」「帰宅時の机の上にはできるだけモノを置かない」などの習慣が、仕事の効率を上げるとともに、消耗品の無駄遣いを防ぐことにもつながります。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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