「営業マンの実績最大化が管理職の役目」という所長
この会社は経営者も含め、私が知る限り決してブラック会社ではありません。一人ひとりの営業マンも悪質な人間ではなく、件数を売ることだけをよしとされている環境で、素直に疑うことなく営業活動に精を出しているように見えます。
しかし、顧客の視点から見れば、全体で行われていることは、まぎれもない「ブラック営業」。会社の都合だけを優先し、顧客の利益を平気でおろそかにします。この原因は「現場の管理職の評価基準」にあったのです。
ちなみに、本社の人事部が作成した人事評価マニュアルでは、「実績」と「業務姿勢」を評価基準の2軸としていました。しかし問題の職場では、「実績」の高い者は、クレームやクーリングオフがいくら多くとも「業務姿勢」も良い評価がなされていました。
一方、「実績」の低い者はおしなべて「業務姿勢」にも悪い評価がつけられていました。実質的には、マニュアルとは異なる“実績至上主義”が実践されていたのです。
問題の多い職場の管理職に、「あなたの部下である営業担当者のミッションは何ですか?」と尋ねてみると、予想通りの答えが返ってきました。
「自社収益の増大に資するような、個別実績の最大化が担当者のミッションです」
さらに営業所長からも、「営業担当者の実績を最大化させることがお前のミッションだ」と言われ、それを実現できるよう指導、管理していると明かしました。
もちろん、この企業の経営理念には「顧客の繁栄を第一に考え」という文言が入っていますが、営業所長や管理職の認識の段階で「顧客」の存在がすっかり抜け落ちてしまっていたのです。