「管理部門」も「営業の最前線」も、会社組織にとってどちらも必要な役割であり機能です。しかし、社外のお客さんに対して商談を行う「営業」は、確かに強いプレッシャーのかかる仕事ではあります。仕事の成果が数字で問われやすいという特徴もあります。
そういった視点から見ると、社内にはプレッシャーが強い職場と、比較的ゆるい職場があるのは事実でしょう。これまで運よく「ゆるい職場」にいられた人も、この厳しいご時勢には安泰ではありません。誰もが「いつか営業職を経験しておいた方がいい」と考える時代になったのではないでしょうか。
転職しても独立しても「営業」はついて回る
精密機器メーカーに勤務する47歳のHさんは、入社以来、管理部門ひとすじ。これまで日々の仕事を淡々とこなしてきました。そんなHさんに最近、営業部門への異動が言い渡されました。Hさんは驚き、
「どういうことですか? 私に会社を辞めろというのですか」
と上司に問いただしたほどでした。
この異動は、会社の方針によるものです。社員に複数の職場を経験させて能力開発を行う「キャリア・デベロップメント・プログラム(CDP)」の一環で、5年以上同じ職場にいる人たちを中心に対象としているのだそうです。
「47歳で、いまさら能力開発か」とも思いますが、業績も厳しい中、会社を筋肉質にしていかなくては利益を確保できません。管理・間接部門の人数を絞り込み、かつ若返りを図る必要があります。これは、どの会社でもいえることです。
そこで、会社の人員を売り上げや利益を生み出す営業部門へシフトし、それまでのキャリアを生かしながら成果を上げてもらおうとしているわけです。
ただ、人生の後半で新しいプレッシャーに遭遇するのは、確かに辛いことです。体のいい退職勧奨として、慣れない仕事をさせる会社もあるくらいです。
そのようなハラスメントは許せませんが、かといって管理部門の高給取りを会社が雇えないといっている限り、会社の中で別の居場所を見つけるか、転職するか独立開業するしかありません。転職先は営業以外は数が限られますし、開業すればきっと「営業活動」が必要になります。
「自分ならどんな営業ができるか」考えてみる
話を戻すと、Hさんは結局、半年後に退職してしまいました。プライドが邪魔をして、年下の同僚たちに「教えて欲しい」といえず、お客からのクレームが入っていると年下の部下から指摘されても、
「そんなこと言われても、何をすればいいのか見当もつきません」
と素直に受け取れません。社会人としての人生を真っ向から否定された気分になったのか、目にはうっすらと涙が溢れていたそうです。
上司は営業同行をして指導することにしましたが、Hさんは人事に直接「管理部門でこそ自分は活路が出る。元に戻して欲しい」と訴えました。しかし、同じようなケースを多く見てきた人事の対応は冷静でした。
「Hさんがこれまで積み重ねてきた経験を、営業で活かせないのでしょうか? 会社はそれを期待しています」
運よく配属されたゆるい職場に、いつまでいられるのか。そんなゆるい職場が、今後そのまま存在し続けられるのか…。その可能性が低いのであれば、周囲の人が助けてくれそうなうちに、「自分ならどういう営業ができるのか」と考え、自ら飛び込むくらいの覚悟をしておいた方がよいのではないでしょうか。(高城幸司)