ユーロ流通から10年半 国家が独自通貨を持たない苦しみ

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通貨統合の大きな恩恵を受けていたギリシャ

   ただし、ユーロという共通通貨を持つことは、悪いことばかりではなかった。事実、EU加盟国の中では経済発展が遅れていたギリシャは、当初、大変な恩恵を受けている。労働力や資本が国境を越えて流入してきたばかりでなく、それまでよりもずっと低い金利でお金を借りることができるようになった。

   流通しているお金は、お金を発行する中央銀行からみれば債務であり、将来のいつかの時点でその金額に見合う責任を果たすことになる。中央銀行や、その後ろ盾になる国自体の信用が劣ると、金利は高くなる。

   ギリシャという単一国家で使われていた「ドラクマ」という通貨に比べれば、圧倒的に安い金利でユーロというお金を借りることができた。だから、設備投資もやりやすくなり、遅れをとっていた経済はどんどん追いついていくことになる。

   こうしてユーロ導入からしばらくの間、ギリシャなどユーロ圏で相対的に経済が遅れていた国々は、繁栄を謳歌することになった。そうしたプラスの面を実体験しているからこそ、ギリシャの立場からユーロ離脱という選択をとることもなかなかできない。

   ユーロという共通通貨――そこにはプラスとマイナスの作用が内包されている。欧州の経済危機の解決には、EUのあり方を考える難しい問題がある。(大庫直樹)

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
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