「この前、社長に言われたの。『オマエ、俺の愛人にならないか?』って」
ベンチャー企業で働き始めた友人のC子が、久々に会って開口一番に漏らした言葉だ。入社して2か月くらいして、社長の商談に同行することが増えたC子だったが、ある日の仕事帰りに社長と食事をしながら、いきなりそんな話を切り出されたという。
「俺とつき合わないか、だったらまだ分かるけど、愛人は何か違うよね。ショックだったわー」と憤りを隠せない様子。社長は、なぜそんなことを言い出したのか。2人で考えてみた。
「なぜ彼女ではないのか?」理由があるのか
「愛人」という言葉には、独特な響きがある。
ウィキペディアによると、(1)正式な婚姻関係がない、(2)関係の深さ(肉体関係)が暗示される、(3)相手に何らかの支配を及ぼしていることや金銭などを渡していることといった関係の非対称性が暗示される、(4)年上の男性から見た年下の女性に対し用いることが多い、といった条件があるらしい。
1つひとつ検証していこう。(1)C子も社長も独身なので、正式な婚姻関係はない。(2)愛人をOKすれば、当然関係性は深くなるだろう。(3)C子は社長の会社に雇われているので、関係の非対称性もある。(4)社長は35歳でC子は27歳だから、年上男性・年下女性の組み合わせである。こうしてみると、2人は愛人関係になれるようにも見える。
しかし、考えてみると(1)から(4)を満たしていても、愛人ではなく単に「彼女」と呼べばいいではないか。自分の会社の社長と付き合っている女性社員なんて、山ほどいそうだ。わざわざ「愛人」と呼ぶ必要があったのか。
ひとつ考えられるのは、「彼女」だったら二股はできないが、「愛人」なら対価(?)も払っていて純粋な恋愛関係ではないので、他で何をしようが自由と思っているのではないかということ。そんなオレ様な夢を、ここで叶えようとしているのか。
若い女性を、おカネで支配してみたい「男のロマン」があるのかもしれない。もしかして、昔からのビジョンが「社長になって愛人を作る」でセットだったりして。小金が使えるようになって、ちょっと色気が出てきたのだろうか。
そろそろ何か達成感が欲しかったのかも
実際、最近の社長は「社長」というステイタスに酔っている感があるという。2人で食事をするときは、一流ホテルの夜景が見えるレストラン。クルマはBMW、都内にタワーマンションを購入と、絵に描いたようなバブルさんライフを送っている。
しかしC子の分析によると、社長は基本的に真面目な働き者タイプらしい。
「学生時代に起業して、ビジネスばっかりやってきた人なのよね。ITバブルが弾けたときとか、結構苦労したみたいだし。最近ようやく会社が軌道に乗ってきて、ずっと遊んでこなかった反動が出てきちゃったのかもね」
そろそろ何か達成感が欲しかったのかもしれないなあ、とC子はだんだん同情し始めてしまった。マズイ、このままでは「愛人」を了承してしまうのではないか…。
そんな心配をよそに、C子はいまも同じ会社で普通に働いている。社長からは、ときどき「考えてくれた?」と聞かれることもあるが、口説きの真剣さも弱まってきた。そもそも相変わらず仕事が忙しくで、彼女を作るヒマもないらしい。
結局、「ちょっと言ってみたかっただけじゃないの?」という結論に落ち着いた。彼にとって「愛人」は、憧れワードだったのだろう。かわいい男性だ。(池田園子)