AIJ投資顧問の代表ら3人が詐欺容疑で逮捕された。全国の厚生年金基金から2000億円の資産を集め、その9割を溶かしたとされる一件だ。
「運用利回り240%!」という虚偽の情報で顧客から資金を集めていたのだから、逮捕されるのは当然だろう。どんなに偉い人でも、嘘をついてお金を集めるのは悪いことだ。
ところで、筆者はAIJ並みに、いや、それ以上に「嘘をついて大金を集めている人たち」を知っている。彼らはこの不況時に「運用利回り4.1%」というどう考えても不可能な数値を100年間維持できますよと謳い、それに基づいた商品を広く提供し続けている。ちなみに、2001~2010年度の運用成績は1.57%だ。
3400万人に被害が及ぶ「事件」は放置されたままだ
AIJでは全国74の厚生年金基金が被害を受け、88万人の加入者に影響が出るとされるが、こちらの組織の被害者は3400万人に及ぶことが予想される。それだけの人間が毎月のように、組織にお金を払い続けているのだ。こっちの方が経済事件として比較にならないほど巨大なのは明らかだろう。
AIJ事件では、トップの6000万円に上る高額報酬もクローズアップされた。その組織もトップは3000万円以上の年収を保証され、幹部たちは様々な特殊法人や大学ポストに転職し、日々、古巣を擁護し続けている。筆者自身、メディアの中に、明らかに彼らが企画した擁護キャンペーンの痕跡を目にすることがしばしばある。
もっとも、反省という点で、両者のスタンスは大きく異なる。AIJのトップは国会喚問で非を認め、謝罪をした。たとえ形式的ではあっても、頭を下げているわけだ。だが、その組織は今にいたるまで己の過ちを認めてはいない。
今のままではあと20年程度で積立金が枯渇することも、現在の60代と20歳未満の間で3000万円以上にも上るとされる世代間格差がさらに拡大することも、彼らは認めようとはしない。
仮に積立方式だったとした場合、800兆円に上る積立不足が生じていることは認めつつも、「賦課方式」の名のもとに、それを次世代に負わせることを正当化し続けている。そんな中、ただサラリーマンの保険料だけが上がり続けている状況だ。
そう、その組織とは厚生労働省であり、問題の事業とは厚生年金のことだ。