浦沢直樹さんの「パイナップルARMY」(原作・工藤かずや、小学館)というマンガを読んでいたら、こんなセリフが出てきました。
「いいか、相手を倒すには自分に自信を持つことだ!!」
「たとえマル腰で敵の前に立ったとしても、なんでも武器になることをおぼえておけ!」
「死にものぐるいで戦えば、君のような女の子でも敵を倒すことができる」
このセリフは、元傭兵で今は戦闘のインストラクタ―をしている主人公が、少女相手に護身術を教える際にアドバイスとして伝える言葉。
これはこのまま、私のしている督促の交渉にも当てはめることができるなぁと思いました。「自信」、それを持つか持たないかで交渉の結果は全然違ってきてしまうのです。
回収率のいい先輩は、みんなゆっくり話していた
例えば私が督促で、「あのぅ…、お客さま、ご入金をお願いしたいのですが…」と自信なさげに電話をかけたらどうでしょう。なんか払わなくても良さそうな気がしてしまいます。交渉は自信を持たなきゃ勝てないのです。
でも自信なんか一朝一夕でつくわけがなく、私はしかたなく毎度のように先輩に泣きつきに行きました。すると先輩はこんなアドバイスをくれました。
「とにかく、ゆっくりしゃべって。そうしたら自信がありそうに聞こえるから」
そ、それだけ!? だいたいいきなり電話をかけて督促しているわけなので、電話向こうのお客さまは急いでいる場合が多いのです。そんな時にイキナリゆっくりしゃべって電話をしたら「早くしろよ! 急いでるんだよ!」と怒られてしまうんじゃないでしょうか…。
でも、私はしぶしぶと先輩方の電話の録音を聴いてみることにしました。ところが、音源を聴いてびっくり。コールセンターで回収率のいい先輩方は、みんな交渉をするとき、ゆっくりと話していたのです。
「ご入金が遅れているようなのですが~、何かご事情があるのですか~?」
「あ~すみません、今月ちょっと出費が多くて~…」
督促をする私たちがゆっくりしゃべると、お客さまも釣られてゆっくりとしゃべってくれるのです。人間、怒ってるときはゆっくりしゃべれず早口になります。だからゆっくりしゃべると、必然的に穏やかな雰囲気で交渉をすることができます。
ついつい険悪になりがちな督促の電話でも印象よく交渉をすることができ、話すペースを遅くするだけでこんな効果があったのです。
キョロキョロしない、小刻みに体を揺すらない
コールセンターで働いていて、ひとつ気がついたことがあります。それは「口調は伝染する」ということ。とがった口調で話してくるお客さまに釣られて、オペレーターの口調がとがってしまってクレームになることがあります。
でもこちらが丁寧な口調で話していると、相手もつられて丁寧な口調になることがあります。会話のスピードも同じで、こちらが早口でしゃべると相手も釣られて早口になります。
「お客さまは急いでいるだろう」と気を使って早口でしゃべると、お互いにまくしたてるような話し方になって、かえってせわしない印象の電話になってしまっていたのです。
この「ゆっくり=自信」という法則は、電話だけじゃなくて行動にも当てはまります。
キョロキョロとせわしなく視線を動かす、小刻みに体を揺する、上ずった声で早口でしゃべる――。こういう動作をする人は、なんだか自信がなさそうに見えてしまいます。まさに、昔の自分はこんな感じでした。
でも逆にゆっくりと動くと、落ち着いた印象になります。一つひとつの動作が丁寧な人は、なんだか優雅に見えるものです。なるほど、自信って「ゆっくり」した動作の中から生まれてくるんだなぁと、督促のテクニックからひとつ発見をした出来事でした。(N本=えぬもと)