「会社に通報しても無駄」というあきらめ感を抱かせない
JR西日本が発表した再発防止策は、その多くがチェックやモニタリングなどの仕組みの強化である。これらは、不正の機会を減らすうえでもちろん重要な対策だが、実際にチェックを行う職員の意識が高まらなければ、仕組みの効果は発揮されず、結局形骸化してしまうだろう。
プレスリリースでは「不正を許さない風土を作る」ということが強調されているが、具体的に何をすべきだろうか。意識・風土改革のキーワードは、「率先垂範」と「信賞必罰」である。まずは、今回の事件を研修において生々しく取り上げ、
「不正は必ず発覚する」「発覚したら容赦なく厳しく罰する」「刑事告訴も辞さない」「自分のキャリアは台無しとなり、家族も不幸にする」
ということを、一人ひとりに痛感させることが必要だ。その上で、「4つの問い」の意義をあらためて徹底的にすり込むとよい。
内部通報制度への信頼感を高めることも不可欠だ。匿名の意識調査により通報制度に対する本音をできるだけ吸い上げて、制度の改善に活かす。
従業員が通報をためらう理由には、報復やいやがらせが怖いという以外に、「通報しても無駄だ」という不信感、あきらめ感がある。経営者は通報を奨励し、「通報者保護と事実究明に本気で取り組む」というメッセージをあらゆる機会を通じて送り続けなければならない。
さらに、これは慎重な対応が求められるが、今回のように不正に加担させられた者が、自らの過ちを勇気をもって通報した場合に、何らかの情状酌量の余地を設ける制度の導入も検討の余地があろう。
内部通報制度の活性化は、「不正は必ず発覚する」という認識を高め、抑止力の強化につながるのである。
そして、前回も取り上げたが、管理者教育を通じて範となるリーダーを育て、不正リスクへの感度、異常への察知力を高める。「うちでは不正は起きない」「部下に任せておけばいい」という安易な意識は禁物であり、チェックを怠った管理者に対しても厳正な処分を徹底することで、現場の規律を高めなければならない。(甘粕潔)