少し前に、藻谷浩介著『デフレの正体』がベストセラーになった。同書は人口動態、特に消費や生産の主な原動力である「生産労働人口」が経済に与える影響が大きく、将来予想を立てる方法論になりえると指摘して大きな話題を呼んだ。
僕は大阪府の歳出、歳入をどこまで人口と結び付けられるかトライしたことがある。過去の履歴をとってみると、歳入は法人税の動向次第で大きくぶれるので、なかなか予想できるとは言い難かった。
しかし、歳出はあまり大きなブレは見つからなかった。兆円単位の歳出なので100億円単位のブレを気にしなければ、将来の必要歳出もかなり予想できそうだった。
年少人口の減少に伴い、歳出も急速に減っていくワケ
予想方法は、極めて単純である。歳出費目ごとに受益者を大まかに決めて、過去の1人当たりの費用実績から推測した。
歳出に含まれている地方債の償還費用を除くと、教育費と福祉費が大きな歳出項目になる。大阪府くらいになると都市が成熟しているので、道路や河川整備、土地整備、都市開発などの公共投資的な費用は実は少ない。
教育費は年少人口(15歳未満)1人あたりいくらかかっているか、過去の実績から割り出したうえで、将来予想の年少人口に掛けて予想する。福祉費は、高齢者福祉とその他の費用に分け、それぞれ老齢人口(65歳以上)と全人口で1人あたりを計算して、将来予想の老齢人口と全人口に掛けて計算してみた。
細かいことを言い出すと、高校は府立で小中学校は市立になるのではないか、ということになるが、府も小中学校の費用を負担している。いろいろな補正を行ってみたが、せいぜい100億円とか200億円とかの差にしかならなかった。全体の歳出が3兆円を超えているので、この程度の誤差は容認できるものとした。
また、歳出自体があまり人口と連動しそうにないものは、現状維持で続くものと考えた。先ほどの公共投資的な費用がそれである。老朽した道路や橋梁などのインフラ更新を除くと、今後の政策(つまり、ポリシー)によるものなので、現状維持として計算してみた。
そうしたシミュレーションをしてみると、自治体にとって意外な事実が発見できる。実は、年少人口がこれから急激に減少していくことは、歳出もその分急速に減少していくことを意味する。自治体にとって、教育費はかなり重荷になっているわけである。
この10年を逃せば財政の立て直しは難しくなる
学齢になれば全員が学校に通うので、教育費は必ずかかる。一方、福祉や医療費は、老齢だからといって全員に発生するわけではない。後期高齢者医療費のように、国の負担割合が多いこともあって、自治体では高齢者の増加が極端な歳出増にはつながらない。
60代くらいの世代は消費性向もそれなりにあるし、税収にも貢献する。ということは、財務面だけから自治体戦略を立てるのなら、高齢者に魅力のある都市づくりを進めていくことも選択肢になりうる。
壮年中心の都市戦略かどうかは別にしても、シミュレーション結果からは、これから10年くらいの間、自治体の財政が少しだけよくなりそうな気配があることが重要である。年少人口が急激に減り、その割には高齢者の人口が少なく、今と同じ受益者あたりの費用なら、歳出が減る可能性もある。
逆に、この10年を逃してしまうと、いくら年少人口が減るといってもゼロにはならないから、その減少傾向は横ばいに方向になる。その一方で、高齢者は生産労働人口の定年で、しばらくの間は増え続ける。また、高度成長期に建設した道路、橋梁、建物の老朽化は進み、大量の更新需要が生まれる。
結果として、財政的にほんのちょっと薄日が射すこの10年を逃してしまうと、ますます自治体の財政立て直しは難しくなる。「自治体の再生」は2025年までがラストチャンスとは、そういうことだ。(大庫直樹)