自殺者が増え、日本中で貧乏が再生産される
そうそう、不正受給自体が減らなかった一方で、一つだけ増えた数字がある。自殺者数だ。
「子どもさんや兄弟はいらっしゃるんでしょう? でしたら、まずはそちらに相談してください」
という強力な武器を、行政は惜しみなくフル活用した。
もちろん、不正受給者や平気で戸籍を抜くような図太い人間は自殺なんてしない。自殺するのは、常識のある人や気弱な人、そして子どもに迷惑はかけられないと思うごく普通の日本人である。
結局、山本君は嫁と相談した結果、下の子どもを大学に進学させることを諦めた。もともと勉強のできる子ではないから、本人も納得している。
でも、もしこの子が将来フリーターになって、50代になって生活保護を申請したとしたら……。長男はその重みに耐えられるのだろうか。日本中で、貧乏が再生産されつつあった。
「これじゃあ、おちおち子育てもできないな。だいたい、生まれによって人生の選択肢が決まってしまう社会なんておかしいよ。国は親族に頼らなくても済むような新制度を早急に作るべきだ」
話を聞くだけだった嫁が、ぽつりとつぶやいた。「でも、それって昔の生活保護制度と何が違うの?」(城繁幸)