役所から連絡「52歳の兄の扶養経費を補助しなさい」
さて、時は流れて2030年。山本君もいまや50歳のいいオッサンになっていた。2人の子どもも順調に育ち、家のローンも終わりが見えてきた。順風満帆の人生と言っていい。
そんな彼のもとに、役所からある日1通の督促状が届いた。
「貴殿のお兄さんが生活保護を申請され、本人に生活能力がないと判断、今月から支給がスタートしました。つきましては唯一の3親等内親族である貴殿には、お兄さんの扶養経費の補助として、これから毎月10万円ほどを納付していただきます」
2歳年上の兄は、ずっとフリーターとして暮らしていたはずだが、もう10年以上会っていない。慌てて役所に電話した山本君に対し、役所の職員はそっけなく答えた。
「年収500万円以上の親族は扶養できない特別な理由が必要なのです。あなたは昨年度の年収600万円の正社員で、マンションの資産価値および預金残高からも、十分な扶養能力ありと判断した次第です」
以前なら、子どもが2人いれば年収1000万円未満の人間なら扶養義務は免除されたらしいが、財政危機が顕在化する中、自治体は裁量的に運用基準を引き下げていた。
「し、しかし……」
「支払っていただけない場合、会社に差し押さえの通知が行くことになりますが、よろしいんですね?」
「わ、わかりました……」
日本中で、同じことが起きつつあった。
日本の年金制度はサラリーマンを中心に設計されているため、非正規雇用労働者が職にあぶれ出す50代以降、彼らの多くが生活保護に殺到するだろうという予想は、早くから多くの識者がしてきたことだ。だが、年金制度の一元化等、抜本的改革に反対する自民党が政権復帰したことで、この問題は放置された。