国が若年層の雇用支援の柱として、全国500の大学にハローワークの窓口を作るそうだ。地元の中小企業と学生のマッチングを後押しするのがねらいだという。
現在、元祖氷河期を上回るほどの就職氷河期だと言われてはいるが、実際には従業員数300人未満の企業では大卒求人倍率は3.27倍と、売り手市場が続いている(ちなみに従業員数5000人以上の企業だと0.6倍。ともにリクルート・ワークス研究所調査)。
地元密着型のハローワークが間に入ることで、ミスマッチの緩和に一定の効果があるだろう。
大卒者が無条件で就職できる時代は終わった
ただ、筆者はそれ以上に、大学にハロワができるということに対していろいろと思うところがある。それは戦後、ずっと続いてきた一つの価値観の終焉を意味している。
率直に言えば、(筆者も含め)戦後の少なくない数の人間は、よい会社に就職するためのパスポートとして大学に進学したはずだ。
そこに行くことで「新卒一括採用」という摩訶不思議なレールに乗ることができ、ハロワなんて通わなくてもピカピカの企業から内定がもらえるという理由で、安くない学費と4年間という時間を費やしてきたわけだ。
大学にハロワができるということは、そういうシステムの終焉を意味する。パスポートの効果がなくなるのなら、目的のない人がそこに行く理由はなくなるだろう。
ところで、つい先日は、ユニクロを運営するファーストリテイリングが「大学1年に内定を出し、4年間OJTも兼ねてバイトをしてもらう」というリリースを出して話題となった。
また、ソニーをはじめとする大企業の多くが、卒業後3年内の既卒者に対しても門戸を開くことを宣言している。事実上の新卒一括採用の見直しだ。
実は、これらの現象は、すべて根っこでつながっている。いま起きているのは、緩やかだがとても大きな価値観の変化だ。
「大学で何を身につけるか」が重要だ
従来、日本社会には、18歳で大学入学して、22歳で就職するという明確な一本のレールがあった。
重要なのは、なるべく上物のレールの上をできるだけ効率的に走ることで、だから東大にせよ早慶にせよ、入学したらあとは就職までは遊んでいられたし、それで就職もできた。
だがこれからは、中で何を身につけるかが重要となる。
たぶん、キャンパス内にできたハロワ窓口を利用する最初の学生は、あまりのギャップに驚愕するに違いない。
そこでは将来のビジョンとか夢とかを熱っぽく語る空気もなければ、サークルやバイトの成功体験を問われることもない。何をやってきたか、何ができるかが、ごくごく質素に問われるだけである。
だが、それが本来の就職なのだ。一人でも多くの若者が、新しい価値観を正しく理解し、有意義な学生生活が送れることを祈ってやまない。(城繁幸)