「婚活」という言葉は、以前より聞かれなくなった。しかしブームが過ぎたとはいえ、結婚したくても出会いがない、あるいは結婚する意欲が湧かないという人は多く、少子化対策を含め「課題」が終わったわけではない。
ある会社では、社員の健康問題と「独身者」との関係が判明し、役員会で「会社として婚活を支援しては」という意見が出たという。
メンタルヘルス不調者にも独身社員が多く
――中堅IT会社の人事です。社員の健康増進策を検討するために、近年の健康診断の結果を分析したところ、数値の悪い社員のほとんどを独身者が占めていることが分かりました。
さらに調べてみると、メンタルヘルス不調に該当する人も、同じように独身者が多いことが判明しています。
当社の独身者は元々多く、社員の約半分を占めます。20代はもちろんのこと、30代や40代での独身比率もかなり高いです。部内でヒアリングをしたところ、独身社員の生活は、
・仕事のメリハリがなく、遅くまで会社に残っている
・食事の時間が遅い上に、インスタント食品などで済ましている
・休日を含めて生活のリズムが極めて不規則
という傾向が確かにあるようです。
この問題を担当役員に報告したところ、社長から「会社として婚活を支援してはどうか」という発言が出たそうです。個人的には、会社が社員のプライベートに手を突っ込むことに、かなり抵抗感があるのですが。
とはいえ、技術系が多い社員たちは圧倒的に奥手な人が多く、このままではずっと独身を貫きそうな感じはします。恋愛や結婚というのは周囲の環境による影響も多いという指摘もあり、会社として放置していいのかなと思い始めている昨今です――
臨床心理士・尾崎健一の視点
もはや「おせっかい」ではない。会社が支援する意義はある
独身であることのメリットとして、「自由で気楽」「経済的余裕」があげられます。現代は、そのメリットを享受できる場面は確かに多いでしょう。その一方で、首都圏の中高年独身者(35~54歳)を対象とした生命保険文化センターの調査によると、独身であることのデメリットとして「将来が不安」「生活が不規則」「一人前と見なされない」「健康管理が難しい」という回答が上位になっています。結婚することで生活の基盤と責任が生まれ、職場への定着率が高まったり、会社への貢献度が上がるという事例もあります。
これらの点は仕事への影響も大きいので、社員個人の問題として放置するのではなく経営的な視点で考える会社もあり、実際に婚活支援を行うところもあります。結婚は社員の生活の質とともに、会社の生産性向上に役立つという意義を踏まえて考えるべきでしょう。会社にとって費用負担が重い場合には、一部個人負担とすれば、本人の本気度も増してさらによいのではないでしょうか。
社会保険労務士・野崎大輔の視点
「女子社員を採用しろ」というのが効果的だが
恋愛や結婚における「周囲の環境」の影響は、意外に大きいと思います。女性事務職の割合が多かった時代には、社内恋愛や結婚がずっと多かったそうですし、女性が多い金融系の会社では、いまでも社内結婚があるようです。一日の大半の時間を過ごす職場に男性しかいなければ、出会いの機会は少なくなり、独身者が増えるのも当然ではないでしょうか。とはいえ、会社に「若い女子社員を採用しろ」というのも難しい話です。有料の結婚相談サービスがいろいろありますので、費用を会社が一部補助するという形ではいかがでしょう。長時間労働を解消し、デートする時間を割けるようにすることも必要です。
また、とりあえず社員の健康問題だけなら、婚活支援以外にも方策が考えられます。昼食用に健康に配慮した弁当を社員に安価であっせんしたり、フィットネスジムの法人会員になって社員の利用を促すこともありうるでしょう。「昨年よりウエストが細くなったら補助を出す」という会社もあるそうです。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。