不正はつらいよ――横領隠ぺいのストレスが心を蝕む

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「休暇を取りたがらなくなる」のも不正の兆候だ

   A氏の上司は「お金に困った様子もなく、逮捕は『まさか…』という思い。非常に有能で、将来を期待していたのに」と述べている。

   しかし、少なくとも同時に2人が横領を手がけている状況から考えても、仕事のシステムや組織風土、そして何より「上司の注意力」に問題があったのではと疑わざるを得ない。

   例えば、横領の隠ぺいを図る者は、職場での自分の仕事を人に見られるのを極度に嫌うことから、その心理が次のような兆候に表れやすいといわれている。

・パソコンで作業をしている時に、後ろを通りかかると、あわてて画面を隠したり変えたりしようとする。あるいは、話しかけるとビクッとする
・自分の席のパソコンではなく、あえて人目につきにくい場所にある端末を使って作業をする
・急に早朝出勤や残業、休日出勤が増える(一人で作業できる状況をつくりたいため)
・休暇を取りたがらなくなる(休んでいる間に不正がバレないか心配なため)
・他人の仕事まで積極的に引き受けようとする(ダブルチェックによる発覚を避けたいため)
・周囲に対して感情的な言動が増える。あるいは急に寡黙になる

   上記のような「怪しい兆し」は、仕事熱心な社員と勘違いしやすいが、「よくがんばってるな」と片付けてはいけない。特に急な変化には要注意だ。どんな優秀な社員でも不正をする可能性があるということを、経営者や管理者は念頭においておくべきだろう。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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