某市の社会福祉協議会職員のA氏(男性、42歳)が、約2億6千万円を着服したとして業務上横領の罪に問われ、先日懲役5年の実刑判決が下された。A氏は2009年4月から1年8か月にわたって約60回、社協の口座から現金を不正に引き出していた。
社協の運営は、市の公金や市民からの寄付金などで成り立っている。A氏の横領は公金を私物化し市民の善意を踏みにじったという点で、非常に悪質である。常習性や金額の大きさからみても、実刑判決は当然であろう。
うつ病になって寺を参拝していた横領犯
A氏は10年1月に同社協で発覚した別の職員による横領事件の特別監査担当者に任命された。しかし皮肉なことに、そのとき自分も横領に手を染めていたのである。
帳簿や銀行取引記録を改ざんして自分の不正を隠し続けながら、他人の横領事件を監査することに相当なストレスを感じたことだろう。
案の定、A氏はメンタルヘルスを害してしまった。裁判にはA氏自宅近くの寺の住職が証人として出廷し、A氏が特別監査と同じ時期から毎日のように寺を訪れ、手を合わせていたと証言した。
同年7月には「うつ病で悩んでいる」と打ち明けた。住職は、当初は他人の不正の調査で精神的に疲れたのかと思っていたが、A氏自身も横領をしていたと知り、なぜ悩んでいたのか理解できたと証言した。興味深いのは住職が、
「A氏に質問するとあたふたしていた。もっと深い悩み事があるのだろうと感じていた」
と証言している点である。
横領を犯すのは、仕事ができて周りから信頼された「フツーの人」であることが少なくない。一度不正を犯してズルズルと繰り返すうちに、平静を保つのが難しくなって、様々な「兆候」が表れる。良心の呵責や発覚への不安からくるメンタル面の変化は、その最たるものである。