「あんたらには教えないよ」 下町のカバン屋に値札がない理由

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「お安くします」ありきでは商売にならない

   友人はムッとして、「値段を聞いて買う気になるかもしれないじゃないですか」と言い返しましたが、店主は動じません。

「うちみたいに商品に自信を持っている店は、値段ありきじゃないんだよ、スーパーじゃあるまいし。商品の材質やデザイン、使い勝手なんかをじっくり確認して、商品を理解した人が『これが欲しい』と思ってくれて、初めて値段がいきるんだ」

   商品のこともロクに知ろうとせず、値段だけ聞いて「お前のところは高い、安い」などと言われるのは迷惑なので、いきなり値段だけ聞かれるのはお断りだというのです。そして店主は、当時現役で営業に携わっていた私に向かって、耳の痛いことをいいました。

「そういう奴らが、自分の仕事でも『お安くしますんで買ってください!』なんて、商売のイロハも知らないセールスをするんだ」

   マス生産&定価販売の商品以外の「価格」について、認識を改められたできごとでした。目からウロコのひと言でした。

   リアルの営業マンが顧客と相対で商品・サービスを売る際に、この考え方が参考になります。商品そのものの機能、品質、営業マンが提供する付随サービスなど、トータルの価値を買い手に十分理解してもらわなければ、価格を判断しようがないはずなのです。

   いきなり「価格」提示から入ってもよいのは、初めから購入意思がある人にセールスをする場合のみ。大量の商品を仕入れて安く売りさばくネット販売は、まさしくこのケースです。

   「価格」をいかに活かせるかが、リアル営業の腕の見せどころ。価格提示はそれだけ神聖で大切なものなのです。安易な価格提示を避けることは、値引きを誘発しない抑止力にもなります。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。執筆にあたり若手ビジネスマンを中心に仕事中の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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