「お安くします」ありきでは商売にならない
友人はムッとして、「値段を聞いて買う気になるかもしれないじゃないですか」と言い返しましたが、店主は動じません。
「うちみたいに商品に自信を持っている店は、値段ありきじゃないんだよ、スーパーじゃあるまいし。商品の材質やデザイン、使い勝手なんかをじっくり確認して、商品を理解した人が『これが欲しい』と思ってくれて、初めて値段がいきるんだ」
商品のこともロクに知ろうとせず、値段だけ聞いて「お前のところは高い、安い」などと言われるのは迷惑なので、いきなり値段だけ聞かれるのはお断りだというのです。そして店主は、当時現役で営業に携わっていた私に向かって、耳の痛いことをいいました。
「そういう奴らが、自分の仕事でも『お安くしますんで買ってください!』なんて、商売のイロハも知らないセールスをするんだ」
マス生産&定価販売の商品以外の「価格」について、認識を改められたできごとでした。目からウロコのひと言でした。
リアルの営業マンが顧客と相対で商品・サービスを売る際に、この考え方が参考になります。商品そのものの機能、品質、営業マンが提供する付随サービスなど、トータルの価値を買い手に十分理解してもらわなければ、価格を判断しようがないはずなのです。
いきなり「価格」提示から入ってもよいのは、初めから購入意思がある人にセールスをする場合のみ。大量の商品を仕入れて安く売りさばくネット販売は、まさしくこのケースです。
「価格」をいかに活かせるかが、リアル営業の腕の見せどころ。価格提示はそれだけ神聖で大切なものなのです。安易な価格提示を避けることは、値引きを誘発しない抑止力にもなります。(大関暁夫)