「他人とシェアできない問題」を抱えていないか
アメリカの犯罪学者、クレッシーは、多数の横領犯からの聴き取りをもとに、「人はなぜ悪いと知りながら横領をするのか」ということを徹底して研究した。その結果、わかったことは、横領犯の多くは「他人には言えない(他人とシェアできない)問題」を抱えていたことである。
例えば、多額の借金を抱えていても、裕福な親とシェアできれば「借金で困ってるんだ。助けてくれないか」と泣きついて、横領をせずにすむ。
しかし借金の原因が、家族に内緒で始めたギャンブルだったらどうか。不倫が原因だったらどうか。家族に知れたら恥ずかしい、離婚の危機になると考えてシェア(打ち明け、泣きつき)できなくなり、最後には手段を選ばなくなるリスクが高まる。
「上司が自分を目の敵にしている」「上司に仕返ししたい」という不満も周囲には打ち明けにくく、心の中に溜め込みやすい。もし上司の耳に入ったら、自分に不利な報復が予想されるからだ。
そんなネガティブな感情のマグマが、「フツーの人」の健全な判断力をねじ曲げるプレッシャーになってしまう――。これがクレッシーの仮説である。
管理職として、部下のストレスをゼロにすることは難しい。しかし、部下の仕事や私生活でどのような問題が起こるかを注視し、声を掛け、悩みを聞くことで、部下の心の中に人知れずマグマが蓄積するのを防ぐことはできる。
昨今、コーチングが管理職研修の定番メニューになっているが、部下との対話力を高め、問題の抱え込みを防止する点で、実は横領対策にも密接に結びついているのである。(甘粕潔)