自治体には「企業」の顔がある 民間手法の積極的活用を

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   世界の先進諸国で公共セクターが成長産業であることは、あまり知られていない。事実、日本ではGDP全体が2000年になってからマイナス成長である一方、公務サービスはプラスの成長率を誇っている。米国では、00年から09年にかけてGDP全体が3.96%の年率成長だったのに対して、政府サービスは5.23%と上回る。この傾向は英国でも変わらない。

   経済不況が続く中で日本の戦略を考えると、財政収支の問題だけではなく、国や自治体の生産性向上が実は大きな課題になっているように思う。

ビジネス型サービスが意外に多い自治体の事業

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   自治体の仕事といえば、戸籍の管理や道路・河川の管理、教育、福祉、警察・消防というイメージが強い。つまり純粋な政府サービスで、これらは基本的に税金によって賄われる。

   しかし、それ以外にも自治体の事業はある。たとえば、水道、下水道、交通、病院などである。日本ではこれらを「公営企業」と呼ぶ。ただし、企業とはいっても水道局や交通局であり、自治体の1部門にすぎないので法人格はない。

   また、場合によっては独立行政法人になっていたり、公社や株式会社の形態をとっていたりすることがある。これらは、サービスの提供によって利用者から収入を得ている点が大きくことなる。

   こうしたビジネス型のサービスは、自治体の業務の中で意外と大きな割合を占めている。資産ウエイトでみると、日本の大都市を含む自治体の場合、3分の1程度がビジネス型のサービスになる。地方債などの負債でみると、半分近くに迫る。

   米国でも英国でも、ビジネス型のサービスが自治体業務の半分程度を占めている実態は変わらないようである。ニューヨーク市では資産の4割ほどが、ニューヨーク州では6割ほどがこれに該当する。ロンドン市(Greater London Authority)の場合、大半の資産がビジネス型サービスのためのものである。

競争を持ち込み「自己規律」を進めるべき

   こうした実態は、自治体の事業の多くの部分に、民間企業の経営手法を持ち込むことができる可能性を示唆している。もちろん、すべてを民間企業と同じようにできるわけではない。不採算分野の存在や膨大な初期投資が必要だからこそ、民間が手をつけることなく、自治体が運営することになった背景があるからだ。

   かといって、逆に自治体のサービスだから民間企業の経営手法はどれも当てはまらないとは言うことではないはずである。民間が導入しているKPI(Key Performance Index)は、それなりに有効な示唆を与えるのではないかと思う。

   たとえば、自治体が経営する地下鉄には不採算路線はつきものかもしれないが、1営業キロあたりの有形固定資産取得原価が大きく異なるのはおかしいのではないか。駅や線路以外に余計な施設があるのかもしれない。

   水道事業の場合なら、最大配水量あたりの有形固定資産取得原価が大きくなるのも、余計な施設がある可能性がある。水道の場合も電力と同じように、ピーク・デマンドが鍵になるから「最大配水量あたり」がKPIになる。

   自治体の行っているビジネス型のサービスをなんでもかんでも民営化しろとは、僕は思っていない。しかし、自治体経営のアドバイスをするようになってから、思いの外、自治体に民間企業の経営手法が導入可能であることがよく分かった。

   民間企業なら競争を通じて、効率化を徹底しないと生き残れないことが身にしみている。組織の論理よりも、競争の方が必然的に効率化が進む。自治体のビジネス型サービスの場合、多くの場合は競争がなく、組織の論理に埋没してしまいがちである。民間企業の経営手法を持ち込むかどうかは、自己規律の問題のように思える。(大庫直樹)

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
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