就職の面接や昇格の面談、プロジェクトの顔合わせや商談後の雑談など、私たちが「世間話」をする機会は意外と多いものです。しかし、そこで何が行われているのか、明確にされることはほとんどありません。
「なぜこんなことで無駄な時間を費やしているのか?」
「そんなことで何を見極めようというのか?」
と考える人も多いと思います。しかし人は意識的かどうかはともかく、そのような時間に意外と重要なことを行なっているものなのです。
私が話を聞いたDさんは、20代の半ばから会社を経営していますが、「相手の本質を見抜くためには、やはり世間話がいちばんですね」と言っていました。求職者や社員と面談を行い適材適所を考える際に、あえて卑近な世間話を選ぶそうです。
「秘書タイプ」「参謀タイプ」を見極める若手経営者
例えば、真面目であまりテレビを見なさそうな人に「AKB48で誰が好きですか」と質問してみると、たいがいは困ってしまいます。即座に「誰も知りません」と答えて関心を示さない人や、「よく知らないのですが、センターの前田なにさんでしたっけ?いいですよね」と努力してついてこようとする人もいます。
中には「ちなみにDさんは誰が好きですか?」と逆質問してくる人もいるそうです。Dさんは、この答え方で「どんなタイプの人物なのか」「一緒に仕事をしてみたいか否か」という判断材料にすることがあるといいます。
話題についてこようとする人は秘書タイプ、逆質問してくる人は参謀タイプとしてつきあう。関心を示さない人とは、もう会いません。この判断が正しいかどうかは異論もあるでしょうが、何気ない世間話が自分のチャンスに関わっている例になると思います。
大手情報システム会社に勤める50代のSさんも、社外の営業マンからアプローチを受けたとき、本題をひととおり終えたあとで「最近、どんなことに興味を持っていますか?」「マイブームみたいなものがあったら聞かせてください」と尋ねるそうです。
おおざっぱな振りなので、相手は意図を図りかねますが、それでも「いえ、好きに答えていただいていいんですよ」と返すので、結局はフリーハンドで考えざるをえません。
もちろん「別にありません」で終わってしまう人は論外です。一方「最近はドライブが好きですね」と答えたあとに、さらに話題を広げてくる人がいます。
相手を見極める余裕のある人に合わせるしかない
「ちなみに最近はイチゴ狩りに凝っていて静岡によく行きます。静岡と言えば鰻。ついでにおいしい鰻屋を見つけたので必ず立ち寄ります。その店の名前を教えましょうか?」
自分の話を滔々としゃべりすぎる人は嫌われますが、目の前の人を見て、興味を引くような話を展開できる人は、Sさんにとって「仕事でも付き合いやすい相手」に映るといっていました。
「なんでここまでやらなくちゃならないの?」と思う人もいるかもしれませんが、重要なのはDさんもSさんも「相手を選べる立場」にあるということです。つまり彼らに対面する人たちは、好むと好まざるにかかわらず「選ばれている」「見極められている」のです。
「それなら世間話じゃなくて、本題で勝負したい」
と思うのも分かります。私も多忙な営業マン時代、同じように考えたことが多くありました。どう考えても、世間話が「無駄話」にしか思えなかったのです。いきなり「早速ですが、プロジェクトの進捗状況を確認します」で何が悪いのか。
しかし「相手を選ぶ」余裕のある人が、DさんやSさんのような視点で、世間話の方を判断材料に加えている限り、選ばれる側が慌ててもしようがありません。立場を自分から相手に置き換えて、世間話を巧みに操る能力について考えてみる意味はあるのではないでしょうか。(高城幸司)
*日経プレミアシリーズから『仕事の9割は世間話』が出ました。ぜひご一読いただければと思います。