親しい関係でもないのに相手との距離をうまく取れない、なれなれしい人がいる。堅苦しすぎないのも悪くないが、いかにも言葉が上滑りしている人からは、不誠実な印象を受けてしまう。
ビジネスにおいて、不誠実というのは致命的だ。コピーライターの中山マコト氏の『地雷語!』には、そんな「社会人が決して使ってはいけない言葉」がいくつも取り上げられていて興味深い。
「空いている日を教えて」という覚悟を決めて
まず目を引いたのが「今度、飲みましょうよ~」という言葉。日常的にとてもよく聞く社交辞令なので、聞くたびに「またか…」と思ってしまう。勢いで言った方が覚えていないのも、タチが悪い。
それではどんな言葉なら、実体のある有益な表現になるのか。中山氏は、受け取る側の負担を考え、日程調整や店のセッティング、メンバー調整などは自分が引き受けると付け加えればいいという。
「私が幹事をやりますから、空いている日を教えてください!」
なるほど。そこまで言うなら「つまらない飲み会にはしません!」と引き受けたも同然。あとはお手並み拝見、ということになる。無責任な「今度飲みましょう男子」とは雲泥の差だ。
これとスタンスが似ているのは、「おいしい店、知りませんか?」という言葉。相手の好みも知らないし、そもそも親しくもない人に、とっておきのお店を教えるわけもない。そんな依頼が相手の負担になると、なぜ気づかないのだろう。
中山氏は、こういう聞き方で相手を困らせないためには、ジャンルを特定して尋ねれば相手への負担も少ないという。
「味噌ラーメンのおいしい店、本格インドカリーの店、お母さんが作ってくれるような素朴なカレー…。食べさせてくれるところ、知りませんか?」
「あなたが面白いと思う本は?」と聞き返す
これの応用として、たとえばウェブサイト制作の発注先を探すときにも、ジャンルを特定した尋ね方をすべきという。
「新規作成でなく、作り直しのうまい会社、ご紹介いただけませんか?」
「デザインよりも、訪問者の関心をひく仕掛けのうまい会社、探しているのですが」
確かに、漠然と「サイト制作のいい会社、知りませんか?」という質問では、こちらの要望と会社の強みがマッチせず、気まずい結果に終わる可能性が高い。
「なんか面白い本、ありませんか?」という質問も、考えてみれば不躾な質問だ。これも「おいしい店」と同じで、相手の好みによって大きく違う。でも、もしかすると自分も聞いたことがあるかもしれない…。
こんな質問をされたとき、中山氏なら、
「あなたが面白いと思う本を教えてください」
と切り返すそうだ。それで答えに窮するようなら、それで終わり。相手の読書レベルや趣味嗜好に合わせて、適切に回答をすると、本を使った関係作りができ、自分の立場を強固なものにできる。
お誘いや頼みごとは、言った方よりも、言われた方がよく覚えていることがある。「あの人は有言実行だ」と信頼されるために、ちょっとした言葉遣いにも気をつけたほうがよさそうだ。(池田園子)