いまでこそ「社員が働きやすい快適なオフィス」のあり方について、いろんな会社が試行錯誤をしている。しかし少し前までは、日本の会社は殺風景で無機質な場所というのが当たり前だったそうだ。
そんな雰囲気に風穴を開けてくれたのが、シリコンバレーにあるグーグルからのレポートだった。「オフィスに遊び場があるんだって?」「一日中、なんでも食べ放題だってよ!」という話を聞きながら、いつか自分の会社もそうなればいいのに、と思いを馳せた人もいるに違いない。
フリーランスやノマドが流行している昨今だが、やっぱり優秀な同僚たちと一緒に素敵なオフィスで働くことには憧れるものだ。そこで六本木にあるグーグル日本法人に、社員がどんな環境で働いているのか案内してもらった。
入館受付は「銭湯」仕様。のれんに「ぐ~ぐる」
グーグル日本法人は、六本木ヒルズの中ほどの3フロアを占めている。従業員数やひとり当たりのスペースは非公開とのことだが、結構な余裕をもったスペースだと感じた。
受付を訪れると、ビビッドな青、赤、黄、緑を使ったデスクや壁、カーペットが目に飛び込んでくる。おなじみのグーグルのロゴと同じ色だ。アンドロイドやクロームのロゴをかたどったおもちゃも、あちらこちらに置かれている。
訪問する人が楽しく、リラックスできる雰囲気だ。広報の宮家さんも「社外からいらした方にユニークなオフィスと思ってもらえるようにしています」と言っていた。
東方向のエリアに進むと、会議室のドアが見えてきた。「え、原宿?」。会議室には東京都内の駅名や地名がつけられている。「午後2時からのミーティングは目白で」といった風に呼ばれているのだろうか。「多摩川」や「富士山」「河口湖」なんて部屋もある。
外資系の会社なのに、意外にも日本風なんだなと思っていると、屋台のようなコーナーにのれんが下がっている。ここは会議などの合間に、ちょっとした仕事ができるスペースだという。もちろん電源も無線LANも完備で、社内ノマドワークができる。
上の階にも入館受付があるが、こちらはもっと和風だ。なにしろ全体が銭湯のようになっていて、壁には富士山まで描かれている。のれんは、ひらがなで「ぐ~ぐる」と染め抜かれ、中に洗い場や風呂椅子が置かれている。床に描かれているのは金魚だ。
「グローバル企業の多様性を職場づくりに取り入れたい」
このフロアの会議室の名前は、「MUGI(麦)」や「YAKUSUGI(屋久杉)」などの植物だ。壁一面にお祭りの写真が大胆に貼られている。廊下に出ると千代紙のような模様が描かれ、出店で売られているようなキャラクターのお面も飾られている。
なぜここまで「日本」が強く意識されているのだろうか。この点について広報の宮家さんは、こう説明してくれた。
「労働環境に関する考え方は基本的に世界共通ですが、各国のオフィスのデザインはその国の文化を表現したものにしています。なぜならグーグルは多様性を大事にしており、様々なバックグラウンドを持つ社員たちに、常に異なる文化や考え方にふれてもらいたいからです。遊び心のあるデザインにすることで、よいアイデアを生む環境を整えるというねらいもあります」
エレベータの中では英語や中国語が飛び交っており、会議室から出てくる人たちも外国人が目につく。一方で廊下に張られている壁紙は和風柄で、よく見るとトンボの中にアンドロイドのキャラクターが混じっている。間違いなく「特注品」だ。
グローバル展開をするならば、世界共通のファシリティを使えば大幅にコストダウンできる――。日本のメーカーだったら、そう考えるかもしれない。でも、そういう効率性とはまったく逆の発想になっているところが面白い。(池田園子)