33歳独身係長を襲った「動機」「機会」「正当化」
では、33才の独身係長はどのようなトライアングルを作ってしまったのか。報道をもとにすると次のように推測できる。
まず「動機」については、キャバ嬢に入れ込み、さらに彼女から「がんの治療費が必要」とだまされて「何としても彼女を助けなければ」という心理状態になってしまったようだ。恋愛感情や病気への同情が、強い後押しになったのだろう。
さらに相手が「キャバ嬢」である点が「他人に言えない問題」に輪をかけている。これが家族の病気なら、ここまでの不正に発展していたかどうか。事実、周囲はメーカーのまじめ係長がキャバクラに通っていたと全く知らなかったそうだ。
「機会」については、元係長は会社の銀行口座の管理を任されており、職務上知ったインターネットバンキングのパスワードを使い、人知れず自分の口座に不正送金ができた。さらに銀行の入出金記録を廃棄し、文書を捏造して隠蔽することもできた。この点は、会社のずさんな管理により生じたと指摘せざるを得ない。
「正当化」は、簡単に言えば「横領に踏み切るための自己チューな言い訳」である。係長の場合には「不正をして当然」という積極的な正当化はなかったかもしれない。しかしクレッシーの研究によると、横領犯の典型的な言い訳は、
「盗むんじゃない。借りるんだ」
というものだったという。まるでAIJ投資顧問の社長の「騙すつもりはなかった。あとで取り返せると思っていた」という言い訳ではないか。元係長の場合も、初めて不正送金する時には「ちょっと借ります。あとで返しますから」と心のなかでつぶやいていたかもしれない。
不正を繰り返すうちに、人は正当化の言い訳を必要としなくなる。最初は多少なりとも持ち合わせていた良心が麻痺し、見つからないのをいいことに、横領額が雪だるま式に増えていく。