会社の「飲みニケーション支援」に社員が乗ってくれない

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   ある調査によると、「職場の上司や先輩と飲みに行きたい」と答えた新入社員は、およそ6割にのぼったそうだ。「行きたくない」「あまり行きたくない」は4人に1人で少数派。長々とした説教や酒の無理強いはイヤといった条件はあるだろうが、飲食を頭から拒否しているわけでもなさそうだ。

   ある会社では、社長の肝いりで「懇親会手当」という制度を作ったものの、肝心の社員が参加に乗り気でなく、管理職が板ばさみになって弱っているという。

自分も苦手だけどやった方がいい気もして…

――製造業の技術課長をしています。わが社では社内のコミュニケーション活性化を目的とした「懇親会手当」という制度があります。管理職が部下と一緒に飲食をした場合、1人あたり数千円の補助が出るのです。

   社長の肝いりで作った制度なので、私も管理職のはしくれとして何度か部下を誘おうと試みているのですが、乗ってくる社員がいなくて弱っています。

   無駄なお金は使わなくてもいいと思いつつ、あまりにも制度を使っていないと「君は部下とのコミュニケーションを怠っているのでは?」と疑われるようで辛いです。部下の反応は、だいたいこんな感じです。

「お酒を飲めない人は、どうすればいいんですか?」
「酔っ払って無礼講で話したら、仕事で気まずくなるんじゃないですか」
「他の部署で上司の独演会になったって聞きましたけど、それじゃ嫌ですよ」
「仕事の話なら、仕事中にしてほしいんですが」

   私も技術者気質なので、彼らの言い分は分からないではありません。それに、こういう場を仕切る経験も少ないので、正直を言うと苦手です。

   でも、普段から同僚たちから孤立しがちな仕事をしているので、飲食をともにする意味もなんとなくあるような気がするんです。会社の方針に沿って試しにやってみたいのですが、何かいいコツはないでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
飲食をしながら「私的な話」をする意味はある

   会社が「飲みニケーション」を支援する目的は、仕事の生産性を上げるために他なりません。上司部下や同僚同士、あるいは部署横断的なコミュニケーションを良好にすることで、仕事の生産性を向上させるねらいがあるわけです。とはいえ、お酒を飲みながらもっぱら仕事の話をすることに抵抗感を抱く考えも理解できます。思い切って「飲み会は飲み会、仕事は仕事」として、就業時間中に仕事のミーティングを終わらせてから、その後に打ち上げをするという切り分けをしてはいかがでしょう。

   終業後に会社の人たちと私的な話をすることに疑問があるかもしれませんが、心理学的には意味があるといえます。部下の上司に対する信頼感は、上司の「仕事の能力」「誠実な態度」「部下の幸せに対する思い」の3点によって高まるという研究があります。前の2つは主に仕事で示せますが、3つめは仕事だけでは伝わりにくいものです。直面する業務だけでなく、部下の価値観や本当にしたいことなどを聞きだすことで、本人に最適な仕事やキャリアパスを考えることができます。そういう話は、飲食をしながらリラックスして話すのもよいのではないでしょうか。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
いっそ若手に予算を与え、企画を任せてみては

   「今どきの若いモンはつき合いが悪い」などと言われますが、必ずしもそうとはいえないでしょう。各種調査でも若手社員が飲み会を拒否したり、上司や同僚とのコミュニケーションを嫌がるという傾向は出ておらず、むしろ逆です。会社の仲間をおろそかにしてプライベートで遊びまわるのは、バブル期の感覚ではないでしょうか。もちろん、部下を長時間拘束して上司が独演会をするような飲み会は嫌がられますが、それは「今どきの若いモン」の問題ではなく、上役や年長者の側であらためるべきことでしょう。

   こういったことを前提とすると、職場の飲み会はいっそ若手に幹事を任せた方が、うまくいくのではないかとも思います。一定の予算を与え、その範囲内で懇親を目的とした会を開催させるのです。企画や準備、後始末まで、いろいろな人の協力を得て進めることで、プロジェクト管理の練習にもなります。うまく実行できたら「いい飲み会をありがとう。また頼むよ」とねぎらいの声をかけてあげて下さい。そうすれば管理する側の視点も身につきますし、自主的に「またやろう」と思ってくれるのではないでしょうか。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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