中国のケータイ利用者9億人は、どこに行くのか

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   中国のIT関係者と話す機会がありました。いつものことではありますが、仮にAさんとしておきます。

   Aさんは、企業向けシステムの受託開発を中心に、コンテンツから不動産にいたるまで、かなり手広く事業を行っています。数多いる中華系ビジネスマンのなかでも、成功者と言って過言ではありません。

「中国では、成功者が続々と現れていますね。自分が知っているなかでも、日本円で資産200億以上というのは当たり前。凄いでしょう? 本省だけでなく、香港、台湾にも、ビックリするような大金持ちが大勢いますよ」

「スマホ利用者は、まだ一部」である理由

   ただ、いまの成功者のほとんどは、これまで「西側先進国」では当たり前だったビジネスモデルを、うまく中国へ移植したパターンが多いのだそうです。

   研究やトライアルは進んでいても、まだネットやITの分野で本格的に成功している「ビジネスマン」は数少ないのが実情だと言います。

「中国のオフィシャルな人口が13億5千万人ほど。そのなかでネット人口は5億人ぐらいですね。これは、そのままパソコンの利用者と考えてもらっていいです。面白いのは、ケータイの利用者が合計9億人いるということ。これは、日本ではあまり知られていないでしょう」

   そこで気になるのが、スマートフォンの利用率。iPhoneの偽物が出回り、本国の発表に先駆けてiPhone6が売られてしまう国ですし、なにより多くのIT機器は中国で製造されています。当然、情報も使っている人も多いのではないか、と。

   すると、Aさんは「フフン」と笑いました。

「スマホを利用しているのは、まだ一部の人だけですね。海外のことを知っているお金持ちとか、エリートのビジネスマンや研究者です。順を追って説明しましょう」

   中国は何しろ国土が広い。急峻な山に囲まれた地域も、大河で分け隔てられた地域も多い。そして、貧富の差もまた大きい。

「だからね、インフラ投資をしても、コスト高になってしまったり、利用者が十分に見込めなかったりで、回線そのものが引かれていない、引いても意味がない地域が多いんです。そんな場所でも、ケータイなら設備も簡単で済むし、便利さはみんながわかる。
だいいち、パソコンは中国でも高価なものですが、ケータイなら比較的安い。そこで、パソコンは持ってないけどケータイは持ってる、ネットはよく知らないけどケータイで電話はしている、という人がたくさんいるんですね」

   で、Aさんが目をつけているのも、この9億人なのだとか。

次の「世界的なヒット」は中国発で生まれるか

「いまの中国には、ケータイのコンテンツで日本のiモードみたいな便利なものはないけど、もちろん、中国でもすぐにスマホの時代、つまりモバイル・コンテンツの時代が来ます。みんなケータイの便利さは知ってしまったし、中国のビジネスマンや観光客が海外へ行くようになって、スマホのことも知っちゃった。
井上さんが言ったように、中国でつくってるスマホだって多いから、その存在を知っている人はいるんです、使ってないだけで。政府もモバイル・インフラの整備には、熱心に取り組んでいく様子。つまり、あと数年先には9億人以上のケータイ利用者が、一気にスマホユーザーへと変貌する可能性があるんですね」

   Aさんは私物のiPhoneとiPadをトントンと操作しながら、続けました。

「中国ではページゲームと呼びますが、日本で言うソーシャルゲームが流行る兆しがあります。私も出遅れないよう、むしろ先頭で行けるよう、コンテンツのリサーチと開発をすでに一所懸命にやってますよ(笑)」

   国民性や地域性があるので、日本や欧米での成功モデルをそのまま持ってくるというのは、さすがに無理があるとAさん。

   ということは、逆に考えれば中国発でとんでもなく魅力的な、世界的にヒットするコンテンツが続々と登場してくることもありえるわけです。日本も負けてはいられません。

   80年代に重厚長大からコンピュータ、ハイテクへと産業の舵を切ったように、国を挙げて大胆にIT・ネット産業を盛り上げていかなければならないとも思うのですが、経済音痴、政策音痴だからなのか、現政権からはあまり熱心さが伝わってこないところが残念ですね。(井上トシユキ)

井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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