リクルートが運営する「SUUMO」は、ユーザーが自分に合った住まいを楽しみながら探す「住活(じゅうかつ)」を支援する不動産・住宅情報サイトだ。物件情報だけでなく、住まい探しのノウハウの記事や、300人を超える体験談を掲載している。
そんなSUUMOがここのところ、こども向けのコンテンツに力を入れている。2011年9月に開設した、こどもと一緒に住まい探しを楽しめるサイト「こどもSUUMO」と、先日開設したばかりのコーナー「うごくえほん」がそれだ。
親バカ心をくすぐる「夢の物件」が並ぶ
「こどもSUUMO」は、こどもたちが描いた住宅の絵を集めた「夢の物件総合サイト」である。お父さんお母さんの親バカ心をくすぐる、かわいいイラストが満載だ。例えば手足が生えた「空飛ぶロボの家」は、操縦可能なロボットの形をした物件で、ロケットが噴射して宇宙旅行をすることができる。
イラストの横には、物件の特徴・設備ごとの索引機能がある。「青色」「四角の家」「3階建て」「ファミリー向き」など色や形、居住者の家族構成などでイラストを検索できるので、つい回遊したくなる。手書きの「にっくねーむ」「だいめい」「ねんれい」も可愛らしい。
「うごくえほん」は、すでに用意されたイラストにペンで絵を書き足し、犬や鳥などの形をした動くスタンプを押して、簡単にかわいいアニメーションを作ることができる。アニメーションには、自社キャラクターのスーモがさりげなく登場している。
完成したアニメーションはサイトに投稿できて、フェイスブックやツイッターでもシェアできる。筆者も5分ほどお絵かきを楽しんでしまった。
ひととおり遊んで気づいたのだが、「こどもSUUMO」にも「うごくえほん」にも、不動産や住宅に関する直接的な情報や宣伝文句は登場しない。あえてこどもをターゲットとしたコンテンツを展開する背景には、不動産業界のマーケティングの難しさがある。
顧客のライフサイクルを分析、タイミングをねらう
不動産は単価が高く、一般的には一生に何度も買える商材ではない。平均購入回数は1.8回、賃貸は3~4回と限られており、企業が多額のマーケティング費用を投じたからといって、需要が大きく変動するものではないのだ。
「不動産の賃貸や購入は、宣伝広告を通じた企業からのプッシュ型のコミュニケーションではなく、顧客のライフサイクルそのものがトリガーとなる。ここがこの商材のマーケティングの難しさです」(リクルート 住宅カンパニー 企画統括室事業推進部ブランドマネジメントグループの田島由美子氏)
このような特性を踏まえ、SUUMOは不動産の購入・賃貸をまだ検討していない「潜在層」にアプローチしたいという思いがあった。しかし、顧客の方から足を運んでくれない潜在層との接点はない。
そんな中、状況が変わったのが3.11以降。震災をきっかけに、ITに興味関心が強くない人の間でもソーシャルメディアが浸透しはじめた。不動産購入は第一子が小学校に入学するタイミングで検討する人が多いため、未就学児を持つ親に焦点をあて、スーモというキャラクターをフックにこどもを通じて親にアプローチすることを考えた。
同社の調査によると、SUUMOのこども向けコンテンツを体験した人はもちろん、実際に体験していなくてもソーシャルメディア上でそのようなコンテンツの存在を知った人たちの間で、本体の住宅情報サービスの利用意向が高まっていたという。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ」という言葉もある。顧客のライフサイクルを分析し、適切なタイミングをねらった施策が、少しずつ成果に現れはじめているようだ。(岡 徳之)