新人がデスクに水槽を置いて、熱帯魚を飼い始めた

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   職場は、仕事をする場所だ。とはいえ、人間が長い時間を過ごす場である限り、仕事に関係ないものを極力排除することが最善かというと、必ずしもそうでもない面もある。「ギスギスした職場」が個々人の生産性を下げることも知られている。

   ある会社では、職場の殺伐とした雰囲気に社員たちが不満を漏らしたところ、新入社員が「熱帯魚の飼育」を提案し、職場に水槽を持ち込んで飼育し始めたという。

職場の評判も上々「オフィスにいたら和むよね」

――中堅商社の総務です。先日、社員から匿名のメールが来ました。隣の部署で熱帯魚を飼い始めたが、放っておいて大丈夫なのかという内容でした。

   現場を見に行くと、新人のA君が自分のデスクに小さな水槽を置き、赤青黄の熱帯魚を数匹泳がせていました。

   驚いてA君に経緯を聞くと、先月末に残業を終えて帰ろうとしたとき、先輩や同僚たちと「殺伐とした職場だよね。なんか和めるものないかな」という話になったそうです。

   そこでA君が、実家で熱帯魚をたくさん飼っているから、何匹か持ってきてもいいと申し出たところ、

「オフィスに熱帯魚がいたら和むよね~」
「いいなーいいなー、何匹か持ってきてよ」

と盛り上がりました。翌週に水槽をセットしたところ、職場の評判は上々。A君が出張中の日には、同僚たちが掃除や餌やりを分担しているそうです。

   部長に「あれはいいんですか?」と尋ねましたが、「小さい水槽だし、みんなが仕事をするならいいんじゃない?」と答えています。

   ただ、A君の様子を見て、「私も魚飼いたい!」「うちのトカゲとか持ってきてもいいかな」という人もいると聞き、このまま放置して大丈夫なのかなという気がしています――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
会社でペットを飼うことのリスクを考えるべき

   職場環境の変更について、誰が権限をもって決めるかは会社によって異なります。規模の小さな会社であればすべて社長の了解が必要でしょうし、部門のトップや管理職に委ねられている場合もあります。A君が責任者に了承を得ず、勝手に飼い始めたのなら問題です。仕事に関係ないものを職場に持ち込むことや、会社の電気を仕事以外で使うことになるからです。他の「ペット予備軍」を含め、仕事に関係ないものをなるべく職場に持ち込まず、必要な場合は上長に相談するよう指導すべきでしょう。

   今回の場合、仮に部長が黙認していたとしても、問題があると判断すれば、会社は部長を通じてA君に飼育をやめさせることができます。電気代が思いのほかかかったり、漏水や水槽倒壊によって電気系統の故障が起きるリスクもあります。掃除が行き届かなくなって不衛生になったり、ペットが死んでショックを受けて仕事に支障をきたす人もいるかもしれません。総務部門は念のためペット飼育のリスクを検討し、方針を決めておいてもいいと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
職場でペットを飼う効果を検討してみてもいい

   仕事に対するモチベーションは、金銭的な報酬だけでなく、職場環境によっても大きく変わります。何らかの形で従業員が働きやすく、気の休まる職場環境を整える姿勢を見せることは、「会社はあなた方の労働環境に積極的配慮をしています」というメッセージを間接的に伝えます。逆に「仕事に関係ないものを持ち込むな」ということは、「余計なことをせずに働け」という意味に捉えられかねず、ギスギスした職場を促進します。

   「アニマルセラピー」という言葉もあるように、ペットを飼育することによる効能はいくつもあると思います。見て和むだけでなく、職場のなにげない会話を促進することも考えられます。熱帯魚ではどうか分かりませんが、犬など哺乳類とのスキンシップが精神的なリラックスをもたらす効果が研究されています。ペットの世話で仕事以外の負担を増やすことは考え物ですが、会社としてルールをきちんと決めて運用するなら、働きやすい職場づくりに一役買ってくれる可能性はあると思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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