「こんな世の中では夢を持てない」という若者への疑問

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悩めるのも幸せ。「知らぬが仏」には戻れない

   もっとも「知らぬが仏」ということわざもある。下手に本当のことを知らない方が幸福だ、という意味だ。世界最貧国の一つであり、教育水準が低く平均寿命が70才に満たないブータンの国民が自らを幸福だと感じているとすれば、それは彼らが「知らないから」かもしれない。

   もし彼らが、日本の衣食住や医療、教育の実態を知ったとしたら、自分たちの環境に疑問を感じるのではないか。

   若い人にはぜひ、海外の若者がどういう暮らしをしているかを、自分の目で見てほしい。実際に行くのが難しければ、本などの情報でもよい。中国やインドのような厳しい環境でなくとも、アメリカやイギリスやフランスだっていい。そういう国の一般的な若者の厳しい現状を知れば、少しは気分がラクになる。

   幸か不幸か、情報化社会の最先端にいる現代の若者は、悩むに足るだけの情報に晒されている。「現実」を知れば知るほど「夢」を感じることは少なくなるものだ。

   夢を感じられない理由として、選択肢の多さもあるかもしれない。そのために悩むことが増えた、とは言えるだろう。しかし、悩むことができるというのは幸せなことでもある。

   昔は職業が安定的だった、という説がある。たとえば「一流大学から官僚になったり、一流企業に行けば一生安泰」というコースがあった、と。こういう特権がなくなるのは、それを享受してきた人には確かに問題だ。

   しかし、それ以外の(大半の)人には無関係だし、むしろ多くの人にチャンスが広がることをプラスと考えるべきだ。私自身、リストラされたことも、ヘッドハンティングで転職したこともあるが、最初の就職で一生が縛られることがなくて心底良かったと思う。

小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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