特定の勤務先に属さないフリーランスの働き方として、「ノマド(遊牧民)」という言葉が流行っている。スターバックスなどのカフェでマックブックを開いている人を、とてもよく見かけるようになった。
でも、移動の途中でスタバに寄り、コーヒーを飲みながらパソコンをチェックするのは悪くないとしても、飲食店を「自分の仕事場」のように占拠する人を目にすると、正直どうなんだろうと気になることもある。
そんな人にはフリーランスが共同作業できる「コワーキング」のスタイルの方が向いているんじゃない?と言われたので、社会人の学びの場である「シブヤ大学」で、スペースを運営する人たちの話を聞いてきた。
フリーランスや会社員が、隣り合って仕事をする
講義のテーマは「自分の仕事をみがき直す。~日々楽しんで働いていくために~」。会場の恵比寿社会教育館に登場したのは、コワーキングスペース「co-ba(コーバ)」を運営する村上浩輝さんと中村真広さんだ。
80年代生まれの彼らが作ったスペースは、渋谷駅新南口から徒歩数分のビルの5階にあり、会員数はオープン4か月で100人を超えた。
コワーキングとは、利用者が執務デスクや打ち合わせスペースなどを共有しながら、それぞれが独立した仕事を行うワークスタイルのこと。働く場所を変えて動き回るノマドとは、似ているようで違う。フリーランスや起業家だけでなく、会社員が本業以外で利用する場合もあるそうだ。
デザイナーやコピーライター、公認会計士や編集者、NPO運営者などが、同じ空間を共有して仕事をする。デザイナーが会計士に確定申告の相談をし、お礼に名刺デザインをするなど「スキルの物々交換」が行われることもある。
コーバでは入会することを「入居」と呼んでいるが、その条件はスペース運営のコンセプトを理解していること。運営者との面談が必要だ。勤め人向けの「プロボノプラン」は月額1万円。平日の6~9時、18~24時、土日は24時間使用できる。無線LANと電源が使え、上位プランだと鍵付きロッカーも利用できる。
紹介された事例では、会社に勤務するエンジニアが、個人的に作っているウェブサービスを開発するために土日に通いつめている話が興味深かった。他の入居者からアドバイスをもらいながら開発に活かしている。会社にもデザイナーやエンジニアはいるが、業務外のことは相談しにくいのだそうだ。
「クリエイティブな仕事をしたい人が出会う場所」
村上さんと中村さんは、コーバを作りたいと思った動機をこう説明していた。
「クリエイティブな仕事をしたい人とクリエイターとが、出会いやすい場を作りたいと思った。会社という枠がなくとも、求めている人と出会いたいという想いがあった。自分とは異なる価値観やスキルの人との刺激的な出会いが作りたかった」
会社の中では、上司が常々「新しい発想で仕事をしろ!」とハッパをかけている。でも、権限の委譲が進まず、オフィス環境も変わり映えしなければ、はっきり言って新しい発想なんてムリだ。
一方で、フリーランスやノマドに対する注目が集まる中で、批判的な意見も目にするようになっている。でも、傍観者として問題点を指摘するより、実際に働きながら解決する方が建設的だと思う。
気が散る、ついサボりがちになる、他人からアドバイスを受けにくい、といったフリーランスの悪いところを、コワーキングスペースがカバーしてくれる部分はありそうだ。
最近では「ザ・ターミナル」(原宿)、「パックス・コワーキング」(経堂)、「ライトニングスポット」(渋谷)をはじめとして、都内にさまざまなスペースが新設されていると聞く。新しい働き方として、今後も注目が高まるのではないだろうか。(池田園子)