「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」というNPOの皆さんが、政府に「早く厚生年金の適用拡大法案を提出してください」という請願を出したそうだ。年金制度について言えば、彼女らの多くはパート等で生計を立てつつ、現在は国民年金に加入しているのだろう。とすると、保険料は低額で月15,020円、老後に受け取る老齢基礎年金は65,741円ほどに過ぎない(ともに2011年基準)。
一方、厚生年金であれば、基礎年金に加えて報酬比例の2階建て部分も受けとることができるから、彼女らが政府の打ち出した厚生年金の加入拡大案に期待するのはよくわかる。ただし、世の中そうそう美味い話は転がってこない。
弱者からむしり取る国の狙いに乗るな
まず、そもそもの大前提として、会社が払える人件費というのは、事業内容によってあらかた決まっている。法律さえ変えれば後から予算が付いてくるのはお役所だけで、ラーメン屋だろうがコンビニだろうが自動車メーカーだろうが、売り上げがあって各種コストが決まっている中、人件費として動かせる余地は少ない。
そしてもう一つ重要な点は、会社側から見れば、各種社会保険等も全部含めて「人件費」だということ。厚労省は「厚生年金は労使折半で会社に保険料の半分を負担してもらえるからお得ですよ!」と言っているが、あんなものは本人の給料から約16%天引きしてその半分に「事業主負担」とラベル付けしているだけの話で、実態は本人負担に過ぎない。
さて、以上の点を踏まえたうえで、シングルマザーのパートさんが厚生年金に加入させてもらった場合に何が起こるか考えてみよう。それまで月給20万円だったとすると、額面で17万円ちょっと、厚生年金保険料と事業主負担分として1.5万円くらいずつ天引きされることになるはず(年金保険料のみを考慮)。実質的な収入減だ。
収入が減るだけならまだマシで、賃金調整がスムーズに行えずに失業する非正規雇用労働者も少なくないだろう。
ひょっとすると、それでも「その分、老後に手厚く保証されるのだから、やはり厚生年金に加入する意義がある」と感じているパートさんもいるかもしれない。でも、以前述べたように、天引き方式の厚生年金は、加入者の逃げ足が速い国民年金より利回りが低い。
しかも、04年改革時に大甘な数字に基づいて制度設計してしまったため、本来なら増えているはずの積立金がものすごいスピードで激減中だ。近い将来、年金支給開始年齢はさらに引き上げられ、実質的に給付カットされることは確実だろう。
つまり、今さら厚生年金に入れてもらうということは、毎月の給料の2割近く費やして、損する可能性の高い金融商品を購入するようなものなのだ。
はっきりいえば、今回の厚生年金適用拡大案というのは、増税も社会保障カットもすぐにはできない国が「将来の手厚い給付」を隠れ蓑にして、弱者からむしり取るのが狙いだろう。