雇用問題誌「POSSE(ポッセ)」14号が、ある大手衣料量販店X社の元女性社員3人をまじえた座談会を掲載している。3人とも有名大学を卒業後に入社したが、入社1年前後で体調不良となって病院に行き、休職を経てすでに退職している。
彼女たちは「実力主義」や「サービス面での評価の高さ」にひかれて入社したが、「半年で店長になる」ための厳しい研修や業務に耐えかねて、退職を決意した。同期入社は2年間で半数が退職したという。
「半年で店長」のプレッシャーに脱落者続々
Aさんは名古屋出身で、関西の大学を卒業。3人の中では最初に退職した。入社7か月を前に、仕事中にぼーっとすることが増えた。朝はなかなか起きられないし、店長に言われたことを忘れたりした。「これはやばいな」と感じ、すでに辞めた友だちに相談したところ、病院での受診を勧められたという。
医師からは「3か月くらい会社を休んだほうがいい」と言われ、店長に相談したが「そんなの無理」という返事が。診断書を示したところ、一転して「明日から休んで」と言われたという。その後は一度も店に行かず、半年後に退職している。
Aさんが休職したころ、Bさんにも異変が起きていた。味覚が変わり体重も減って、家に帰っても眠れない。気分が落ち込み「いま車に轢かれたらいいのに」と思うようになり、Aさんに相談。病院で「1回実家とか帰ってゆっくりしたら」と言われて診断書をもらい、2か月休職して退職したという。
留学経験もあるCさんはX社に1年以上勤めたが、異動した店で感情の起伏が激しく部下を「道具のように使う」店長に当たり、眠れなくなった。彼女もAさんに相談して病院に行き、休職後に退職したが、そのころには周囲に病院に行った人がすでに何人もいたので、抵抗感はなかったそうだ。
入社2年で半数が辞めるのは、「半年で店長になれ」「店長にならないとスタートラインに立てない」というプレッシャーからのようだ。マニュアルを覚えたかどうかのテストが毎週あり、休日はその勉強に割かれる。マニュアルは社外秘で持ち出せないため、復習用に遅くまで会社に残って書き写していた。
人件費に応じた売り上げが上げられず、残業を禁止されたりサービス残業を余儀なくされたりした店舗も中にはあるようだ。短期間で育成された店長の中には「粗悪な店長」もいる。ついていけなければ「どうぞ去ってください」という雰囲気だったという。
自社のシャツ着用は「衝撃的」か「当たり前」か
座談会ではこのほか、入社式前に「企業理念」と「基本方針」を暗唱させられたり、エリアのリーダーがセクハラで懲戒免職されたなど、会社や店舗の細かな事柄まで記されている。
かなり厳しい職場環境のようだが、入社1年程度で辞めた女性たちの話を冷ややかに読んだ人もいる。都内に勤務する27歳の男性会社員Dさんに、J-CAST編集部が感想を尋ねたところ、「この子たちは入る会社を間違えただけでは」という声が返ってきた。
「業績が相当いい大企業と分かって入ったんでしょう? 社内競争だって激しいのは当然ですよ。サービス残業やハラスメントは別ですけど、正直、競争に乗り切れなかった人たちのグチと感じる部分もありましたね」
例えばBさんは、マナーやおじぎ、あいさつを厳しく指導する社内研修に対して、「『何で、発言者に椅子を向けて聞かないんだ』とか『退席するときに机のまわりを片付けなさい』とか、宗教みたい」と憤っている。しかしDさんの見方はこうだ。
「『人と接するのが好き』で『サービス面での評価の高さ』にひかれて入社したと言ってるけど、矛盾しますよね。そういうシビアな社風が、サービスの質の高さを支えてる。それを当たり前と思える人じゃないと将来の幹部候補なんて務まらないでしょ、バイトじゃないんだから」
また、一般客も宿泊する施設で研修を行った際、お風呂に入ったあと自社製品を着るように指定されたことにCさんが「一番驚いた」といい、Bさんも「私もそれが一番衝撃的(笑)。引くよね普通に」と答えたことについても、Dさんはつれない反応だ。
「アパレル会社が業務の一環でやってる研修なんだから、当たり前だと思いますけどね。そんなことも理解できないから余計ストレスが溜まるんでしょう」
座談会の読み方はいろいろあるだろうが、X社の労務管理に改善の余地があるということは言えるだろう。