「夫婦ってさ、やっぱり似るんだね……」
ある日、一緒にご飯を食べていた友だちのY実ちゃんが、唐突につぶやきました。
「ど、どうしたの急に」「実はうちのお客さまのことなんだけどさ」。テーブルの上の煮立った鍋をつつきながら、彼女はぽつりぽつりと語りだしました。
借金を申し込む夫の妻は、すでに隠れて借りている
彼女はある消費者金融会社で働いていて、債権回収の勉強会で知り合いました。最初は私と同じコールセンターの仕事をしていましたが、つい最近キャッシングの申し込みの審査を担当する部署に異動になりました。
消費者金融とクレジットカード会社、似ているようで違う会社で働く私たちは、ともにお酒が好きだったので、よくお互いの家で一緒に飲むようになりました。
「審査を担当して分かったんだけど、お金を借りに来るお客さまに配偶者を申告してもらうと、けっこうな確率でお金借りてるんだよね、配偶者の方も」
クレジットカードと消費者金融のキャッシング、お金を借りるという点では同じですが、借りられる金額が違います。クレジットカードは元々ショッピングで使うためのものなので、キャッシングで使える限度額は割と低く設定されています。
一方、消費者金融のキャッシングは、融資自体が契約目的なので、クレジットカードより大きな金額を借りることができます。けれどその分、申し込み時にはずっと厳しい審査が必要となります。
ちなみにクレジットカードの申し込みでは配偶者の情報を申告してもらう会社はあまりありませんが、消費者金融では申告が必要となる場合が多いようです。Y実ちゃんがため息をつきます。
「この前、キャッシングの枠を増やして欲しいって希望をしてきたお客さまがいたんだけど、奥さんがお金借りてたのが分かって限度額が出せなくて。それでお客さまが『なぜなんだ!』とものすごく怒っちゃって……」
審査が通らない理由は「お答えできません」
現在の貸金業法では、個人の借りられる金額はその人の年収の3分の1までと定められています。収入のない専業主婦の場合、借入は一切できません。
ただ、それは新しい借入をする場合の話で、貸金業法の改正前から専業主婦が借りている場合、その金額は夫の年収(世帯収入)の3分の1の総量規制に含まれてしまうことが多いのだそうです。
「つまり、旦那さんが目いっぱいキャッシングできると思って申し込んだのに、奥さんが内緒で使ってる分の金額が借りられなかったってこと?」
Y実ちゃんはうなずきました。そんなシチュエーション、気まずすぎる! 審査が通らなかった理由は、プライバシーの関係で配偶者でもお答えできませんが、なんとか察していただきたいところです。
ちなみに、契約時に申告してもらうのは、配偶者の氏名と生年月日のみ。借入の有無や金額を尋ねなくても、社内のデータベースで検索すれば、同じ会社で借り入れをしている配偶者の情報がヒットすることがあるわけです。
お互いに内緒で借りていたことが発覚しなければ、知らないうちに家計が破たん状態になってしまいます。そのための「配偶者チェック」なのですが、それはお客さまを思う優しさなのか、貸し倒れを防ぐ防衛手段なのか…。Y実ちゃんがつぶやきます。
「私は別に自分の彼氏や旦那さんが借金しててもいいけど、それを隠さないで欲しいと思うんだ。ああ、でもその前に、お互い彼氏なんとかしなきゃね……」
「そ、そうだね……」
買ってきたビールを全て飲みほし、マッコリとワインの瓶を開けながら、督促の話を肴にグダグダな鍋会は朝まで続くのでした。
N本(えぬもと)