昨年、ネットを中心に異常な盛り上がりを見せた「TPP論議」だが、最近では耳にする機会もめっきり減った。基本的に貿易立国の日本で自由貿易に参加しないという選択肢はありえないし、そもそもビジネスマンで反対している人なんて見たことがないテーマなので、どうしてこんなテーマで熱くなれるのか実に不思議に感じていたものだ。
最近は微量放射能を巡る議論が盛り上がりを見せている。中には(福島県以外の)震災時の瓦礫受け入れすら反対する人たちもいるそうだ。彼らを見ていて、ふと気付いたことがある。この手の「ネット先行でやたらと盛り上がる議論」というのは、議論の中身ではなく、はまる人の側に盛り上がる理由があるということだ。
不安を煽って人を集める「陰謀業界」
ネットというのはとても便利なもので、いくらでも自分の欲しい情報を24時間無料で手に入れることが可能だ。ただし、頭の中にある程度しっかりしたモノサシが必要で、それがなければ、出口のない情報の迷宮に迷い込むことになる。
というのも、ネットの中には悪い大人が大勢いて、常に獲物が来るのを待ち構えているからだ。
「政府はウソをついている」
「××は〇〇の陰謀」
が口癖の人たちで、不安を煽って人を集めるのが彼らの正業だ。その誘い文句はなかなか巧みなので、モノサシを持たない人の中には、これが真実に見えてしまう人も出てくる。
落ち目で行き先を探しあぐねていた人たちが、これを利用しない手はない。従来、この手の陰謀業は社民党と一部の市民活動家くらいしかいなかったのだが、ネットの普及で大量のフリージャーナリストや本業でぱっとしない学者センセイ、不祥事でキャリアが終わった元専門家などが新規開業し、せっせと営業に励んでいる。
最近メディアで見ないなと思っていたら、以前と180度違う主張をブログで展開していたりする人をたまに見かけると、「ああ、この人もあっちでデビューしたのか」としばし感慨にふけることもある。
これが、なんだかよくわからない理由で変な議論が盛り上がってしまう原因だろう。個人的には、今一番の成長産業は、ネットを中心とした陰謀業界ではないかとさえ考えているほどだ。既存左派と一部のフリージャーナリストの主張がまんま被っているのは、何もイデオロギーの問題ではなく、彼らの客層が被っているだけの話である。