学生の大手企業志向が続く中、各ベンチャー企業は有能な人材獲得にユニークな工夫を凝らしている。東京・渋谷のボヤージュグループが、いま流行の「ゲーミフィケーション」を取り込んだ新卒採用試験をすると聞き、取材させてもらった。
ゲーミフィケーションとは、簡単に言えば「遊びや競争といったゲームの要素」を取り入れること。緊張度の高い、堅苦しいイメージのある採用試験と、ゲームをどのようにミックスするのだろうか。
オフィスを使って学生たちが「宝探し」
今年の新卒採用は「時空に眠る大陸の秘宝」と名づけられている。休業日の土曜日に、東京・渋谷にあるボヤージュグループのオフィス全体を使って、学生たちが「宝探し」をするのがその内容だ。
「宝探し採用」に駒を進めたのは、3000人を超える応募から書類選考を通過した、およそ1000人。取材した日は、およそ100人の学生が参加していた。会社からは「動き回るので私服でOK」と連絡が来ていたらしく、リクルートスーツはひとりもいない。
最初に、航海をイメージしたコスチュームの人事担当者が登場。「宝探し」の概要を説明すると、3人から4人のグループを編成する。学生たちは初対面にもかかわらず、すぐに打ち解けて和気あいあいと話している。これがいまどきの若者か!と感心してしまった。
彼らはオフィス内に散りばめられたキーワードを拾い、クロスワードパズルを解きながらゴールを目指す。ヒントを探しに、すぐに行動を開始するグループもいれば、テーブルを囲んでしばし熟考するグループも。課題への向き合い方に個性が出ている。
制限時間は70分と、長いようで短い。あちこちのグループから「分かった!」と歓声が上がる。共同作業を通じてメンバーの絆が深まる。暗証番号を割り出し、茶色い本にかけられた鍵を開くと…。この先は、選考がすべて終了していないので書くことができない。
「社員でも簡単には解けない」という難問だったが、最終的に2グループが解読に成功、社員を含む参加者たちから大きな拍手が贈られていた。
「グループワーク」の能力を重点チェック
とはいえ、選考基準は「謎解きに成功したかどうか」だけではなく、宝探しの過程で見られるプロセスや共同作業のしかた、姿勢が重要なのだという。これだけの規模で実施しながら、合否通知は1週間以内に出すというからスピード感にあふれている。
実際に仕事をするうえで「他人と力を合わせて目標達成を目指す」力は、本当に大切だ。しかし、この能力は学歴や筆記試験、面接では、判断することが難しい。人事担当者の後藤氏は、ねらいをこう説明してくれた。
「採用で重視しているのは、当社の持つカルチャーに合う人材かどうかということ。そこをしっかり見るためには、グループワークが一番です」
社内の壁には、謎解きの鍵となる「挑戦し続ける」「自ら考え、自ら動く」「圧倒的スピード」「仲間と事をなす」といった経営理念が、至るところに散りばめられていた。
ボヤージュグループの方法は、一般的なものよりもずっと手間がかかるだろう。それでも自社が欲しい人材を得るためには、このやり方がよいと判断したわけだ。選考された人材が、今後どんな活躍を見せるのか期待したくなった。
(池田園子)