橋下徹・大阪市長のインタビューが、2012年2月12日の朝日新聞に掲載されている。目を引くのは、現時点での日本社会の豊かさに対する高い評価だ。
「今の日本人の生活レベルは世界でみたら、五つ星ホテル級のラグジュアリー(贅沢)なものです」
「今のレベルに不満のある人は多いでしょうが、(日本は)世界から見るとものすごく贅沢な国です」
昭和40年代生まれなら「豊かさ」分かる?
具体的に橋下氏は、
「蛇口をひねればきれいな水が出る。教育も医療もレベルは高い。失業保険、年金もあり、最後は生活保護もある」
といった要素を挙げ、「今以上の日本を無理に目指す必要はありません」と言い切っている。
とはいえ日本の現状は、大学を卒業したものの就職を果たせなかった若い世代などから、激しく批判されることも多い。とりわけ将来への夢や希望が持てない社会となっていることへの不満が目立つ。
小田切尚登氏のコラム「やっぱり、今の日本の若者は恵まれている」(J-CAST会社ウォッチ)へのコメント欄にも、
「肝心なのは心の豊かさだと言うのに、環境的に豊かでも幸せかどうかはまた別」
「映画『ALWAYS』が3作目まで作られる程人気があるのが、何よりの証拠ではないでしょうか。あの時代は確かに貧乏だったのでしょうね。でも希望はあったはず」
など、将来への夢や希望という視点から、「昔は今よりもよかったはず」「今は昔よりも悪くなってしまった」という主旨の声が多く寄せられている。
しかし、社会インフラが未整備だった昭和40年代に生まれ育ち、3男4女の父親である橋下氏からすれば、何よりも物的な豊かさが達成されたことがきわめて重要であり、これを失わせてはいけないと考えているのだろう。
もっとも、橋下氏は現状に問題がないと言っているわけではない。現在の豊かさを享受し続けることは「すごくコストがかかる」ので、これからは「『国民総努力』が必要」と主張している。現状レベルの肯定は、あくまでも将来に対する強い危機感から来ているわけだ。
「東アジアの若者」との競争なくして現状維持ムリ
また橋下氏は、「明治以来続いてきた社会システムや統治機構」を変えなければ政策が実現できないとし、古い「体制」を強く批判する一方で、日本の若者に対する叱咤激励と受け取れる言葉も飛ばしている。
「東アジア、東南アジアの若者は日本の若者と同じような教育レベル、労働力になってきました。(…)競争で勝たないと無理です」
「やっぱり、今の日本の若者は恵まれている」のコラムには、いまの社会に不満を漏らし、悪いのは上の世代だからどうしようもない、といったコメントも多く見られる。また、若者の中には「生活水準を下げてでも、無理に頑張らない生活の方が個人は幸せになる」という考えも根強い。
橋下氏が大ナタを振るうことで、解消される社会的な悪癖もあるだろう。しかし、彼が考える「この国のかたち」は、若者たちが期待する「ゆるい」ものではなさそうだ。
いまの「豊かさ」を維持するには、相当の汗を流さねばならない――橋下改革が目指す先には、より厳しい「選択」と「競争」があり、社会の中で個人のさらなる「努力」が求められる世の中があるということは、いまから踏まえておいたほうがよいかもしれない。