親というものは自分の子どもを第一に考えている、と言われる。うるさい小言も「あなたのためだから」と言われれば、耳を傾けざるを得ない。しかし、よかれと思ってのアドバイスが、子どもを取り巻く環境を正しく踏まえたものでなかったとしたら……。
人材コンサルタントの常見陽平氏は、学生の就職難の原因のひとつは親にあり、無知なのに過干渉な「バカ親」が子どもたちの就職活動を歪めていると指摘する。
テレビCM見ながら「ここ受けたら?」という母親
――私が取材で出会った早稲田大学に通う4年生の山田博美さんは、就活中の大学4年の6月、母親と一緒に家にいたときに、こんなやりとりがあったという。
「夕飯を食べたあと、母親とテレビを見ていたんです。そしたら、CMに入ったとき『あなた、この企業受けたらどう?』と言い出したのです。次のCMに入ったら、『ここなんかもいいんじゃない?』って……。その会社のこととか業界を知らないのに。しかも、ほとんどCMが流れるたびに言うもんだから、さすがにイライラしちゃって」
私はこの話を聞いたとき、こういう母親が歪んだ大手志向を生むんだと強く実感したものである。テレビのCMを出す企業など、ほんとうにごく一部の大手企業である。しかも一般消費者に対して商品を売る「B to C」の企業だ。
CMを出さない企業にも優良企業はたくさんある。わが子に合った企業もたくさんある。そのことをわかってなくて、CMでよく聞く名前というだけで、子どもにその企業をすすめる母親がいまだに多いのだ。
取材で知り合った成城大学に通う3年生の本橋信二くんはこう話す。
「うちの母親、電話してきては、『いま、外国人採用が増えているんですって。英語を勉強したら?』とか『ソー活っていうのが、今、大事なんだって。あんたはフェイスブックとかいうのやってるの?あんたもやってみたら?』とか、ワイドショーや新聞で仕入れてきた知識を元に、真面目な顔をして、とんちんかんな行動を押しつけてくるんです。これにはめっちゃ閉口します」
本橋くんの疲れた顔が、印象的だった――
(常見陽平著『親は知らない就活の鉄則』朝日新書、35~36頁)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
本書には子どもの内定獲得を邪魔する親たちの、トホホなエピソードが多数掲載されている。内定が出た息子に「そんな会社知らない」と言ってやる気を失わせ、本人の代わりに内定辞退の電話をかける父親。情報源がテレビしかなく、「マス向け」「一瞬の興味を引くための情報」に振り回されて「自分の子どもに合った深い知識」を得ようとしない母親など。
筆者は現場を歩き、親世代とは違う「今どきの就活」の実態を踏まえた提言をする。就活がうまくいく子の親がしている「8つの習慣」として、「こどもの強みや特徴をほめる」「情報にお金をかける」「『どう思う?』と問いかけ自分で決めさせる」などを紹介する。就活対策は一夜漬けでは難しい。バカ親に振り回されたくない学生はもちろん、小さな子どもを持つ親でも目を通しておいていい内容だ。