「クライアント第一」を貫き通すプロフェッショナル

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

打ち明けられる悩みを共有する充実感

   僕はこれに関係して、もうひとつ日本人にはあまりなじみがない話があると思っている。それは、欧米のプロフェッショナルファームが掲げている「The Clients' Interest First」に続きがあるということだ。

   日本でも「顧客第一主義」や「お客様第一」を標語にしている企業がある。しかし、第一があるのだから、その後にくるものが何なのか、何に優先するのかをよく理解していないと、おかしなことになる。

   僕の育った世界では、続きはこうなっている。「The Firm's Interest Second, The Individuals' Interest Third」つまり、会社の利益を二番目に、個人の利益を三番目にしようということ。

   この続きを知って明確になるのは、プロフェッショナルは自我の欲求よりも、クライアントの欲求を満たすことが最優先されるということである。そこまで自分を追い詰めて初めてプロフェッショナルになれるということでもある。

   プロフェッショナルの道を突き進むのは、それだけ大変なものなのである。しかし、クライアントから見て、この人は自分の利益や会社の利益よりもクライアントの利益を優先しているのだと分かって初めて打ち明けてくれる話は多い。

   僕は、クライアントが決して打ち明けることがない悩みを話すときこそ、仕事をしている充実感を得ている。誰も知らないことを共有する。プロフェッショナルはその充実感のために、厳しい倫理観と行動基準を磨いていくものなのである。

   あれから4年。2006年のドイツ大会でも、エリクソン監督率いるイングランド代表は、またしてもスウェーデン代表に予選リーグで相まみえることになる。このときもイングランドが先に点をあげたが、追いつ追われつの展開で、結局2対2のドローとなった。

   ワールドカップ・サッカー――歓声がこだまする。プロフェッショナルとしての規範となる倫理、哲学があればこそ、繁栄を謳歌しているのだと思う。

大庫 直樹

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
姉妹サイト