打ち明けられる悩みを共有する充実感
僕はこれに関係して、もうひとつ日本人にはあまりなじみがない話があると思っている。それは、欧米のプロフェッショナルファームが掲げている「The Clients' Interest First」に続きがあるということだ。
日本でも「顧客第一主義」や「お客様第一」を標語にしている企業がある。しかし、第一があるのだから、その後にくるものが何なのか、何に優先するのかをよく理解していないと、おかしなことになる。
僕の育った世界では、続きはこうなっている。「The Firm's Interest Second, The Individuals' Interest Third」つまり、会社の利益を二番目に、個人の利益を三番目にしようということ。
この続きを知って明確になるのは、プロフェッショナルは自我の欲求よりも、クライアントの欲求を満たすことが最優先されるということである。そこまで自分を追い詰めて初めてプロフェッショナルになれるということでもある。
プロフェッショナルの道を突き進むのは、それだけ大変なものなのである。しかし、クライアントから見て、この人は自分の利益や会社の利益よりもクライアントの利益を優先しているのだと分かって初めて打ち明けてくれる話は多い。
僕は、クライアントが決して打ち明けることがない悩みを話すときこそ、仕事をしている充実感を得ている。誰も知らないことを共有する。プロフェッショナルはその充実感のために、厳しい倫理観と行動基準を磨いていくものなのである。
あれから4年。2006年のドイツ大会でも、エリクソン監督率いるイングランド代表は、またしてもスウェーデン代表に予選リーグで相まみえることになる。このときもイングランドが先に点をあげたが、追いつ追われつの展開で、結局2対2のドローとなった。
ワールドカップ・サッカー――歓声がこだまする。プロフェッショナルとしての規範となる倫理、哲学があればこそ、繁栄を謳歌しているのだと思う。
大庫 直樹