前々回、プロフェッショナルが従うべきルールとして、「ファクトの前では、みんな平等である」ということについて説明した。しかし、クライアントにとって何が「最善」なのかということについては、話はそう単純ではない。
最善とは、いちばんよいこと。いちばん適切なこと。たった2文字の意味を巡って頭を悩ませる。少なくとも僕にとって、何がクライアントにとって最善なのか、未だに確信の持てる答えは見つからない。
面子にかかわる提案は受け入れられにくい
コンサルタントを雇う前、多くのクライアントは依頼する事業について仮説を持っている。こうしたらいい、ああしたらいい、とさんざん議論を重ねてから、コンサルタントを雇うことにするからだ。
クライアントの仮説が大外れであることは、そんなにない。多くの場合、正しい。
コンサルタントは、それを客観的に検証し、クライアント内での共通の認識を確立させる。さらに事業の進め方を具体化したり詳細化したりするから、付加価値が生まれる。
しかし、たまにはクライアントの仮説が外れていることも、もちろんある。仮説が外れていれば、正しい方向に軌道修正することが仕事となる。ただ、意外とこれが難しい。
クライアント内部での面子の問題にかかわることもあるし、当事者意識を阻害することにもなるからである。誰しも自分のアイディアならどんどんやっていくのだが、他人のアイディアに乗るのは、そんなにワクワクしないものだから。
しかし、正しい方向に導かない限り、将来損失を被ることになる。あれやこれや、いろいろなコミュニケーションで納得してもらい、当事者として実行してもらうようにする。そのためにお酒の力を借りることもよくある。お陰で、東京中のお店だけは随分と詳しくなった。
それでも、いつだってクライアントが納得してくれるとは限らない。データや分析結果は十分に揃っている。どんなに時間を掛け、手順を踏んだとしても、納得してもらえないことだってある。
それはコンサルタントとして、まだまだ技量が未熟であるということなのかもしれない。また、場合によってはコンサルタントが知らない世界で、人事評価などに重大な影響を及ぼす提案になっているのかもしれない。