「マエストロ」と「プロフェッショナル」のはざまで

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

どちらの道でも一流を目指して

   アート・ディレクター氏をお誘いしたその美術館は、僕の自宅の近くにある。日本の抽象画の草分け的存在の、アトリエを活用して建築された個人美術館だ。不揃いな樹木がかえって野趣をそそる。その雰囲気に惹かれ、仕事疲れの僕はときどき訪れる。

   人物をここまで抽象化したカタチで表現されてしまうと、館長の解説抜きでは、作品が何を表現しているのかなかなか分からない。分からないのだけれども、何か訴えかけられるものを感じる。絵の前に時間を忘れて立ち止まる。だからこそ、アートなのであろう。

   教会にある宗教画や富豪の肖像画など、クライアントが存在するものもあるが、この画家には基本的にいない。クライアントがいない中で、自分が描きたいものを描く。カタチのひとつひとつ、線のひとつひとつを自分で判断して描いていかなければならない。

   どんなに葛藤があり、勇気が必要だったろう。自己表現に磨きをかけ、人物を記号化したカタチで表現する作風、彼のロジック、方法論に集大成していった。彼は「プロフェッショナル」ではなく「マエストロ」として、彼の仕事を昇華させたのだと思う。

   僕は、いろいろな偶然が積み重なって、たまたまコンサルタントという「プロフェッショナル」の道を歩むことになった。クライアントがあって、彼らにとって最善を尽くすことが仕事になった。

   画家はマエストロとして、自己表現を追求することになる。クライアントはいないが、画を見た人は気持ちを揺さぶられる。マエストロとプロフェッショナルの道は、紙一重のところで交わることがないのだろうが、どちらの道であっても一流と呼ばれるまで努力を重ねていく。僕はそれが一番大事なことと思っている。

大庫 直樹

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
姉妹サイト