「典型的な営業マン」といえば、しゃべりがうまい、押しが強いという口八丁、手八丁が特徴と言われています。確かに会社側から見ると、エネルギッシュな印象を受ける人の方が頼れる気がするものです。
このことを理由に、営業マンの求人募集がかかっていても「自分には無理だなあ」と思う人もいるでしょう。しかし、お客さんの側から見ると、そんな人ばかりが歓迎されるとは限らないのも事実なのです。
売り込まないが「お願いしたことの対応は速い」
「いいですか、聞いてください。実はですね…」
あまりにも前のめりに売り込みかける姿を見ると、人は抵抗感を抱くこともしばしば。「たたみかける言葉の数」が人を引きつけるとは限らないばかりでなく、逆効果になることもあります。
一方、寡黙な人に対して「無口だけど、…だからこそ話を聴いてみたい」と思わせる人もいます。輸入自動車ディーラーのトップセールスマンのKさんも、そういうタイプの営業マンです。
その業績から「ミスター・ベンツ」と呼ばれることもあるKさん。ビジネス誌にも数多く登場しています。
「セールスの秘訣ですか? うーん…」
答えはなかなか引き出せません。ようやく口を開いたものの、「約束を守る、時間には遅れない。誠実な対応をコツコツ積み重ねることですかね」と、あまりに優等生的な答えで、このやり方で本当にトップセールスになれるものかと思うくらいです。
ただ、確かに「この人の言うことなら信用して聴いてもいいかも」「この人になら騙されることはないだろう」と安心させるオーラがあります。
お客さんからの評判は、「不思議なくらい売り込まない」けれども、「こちらがお願いしたことへの対応は速い」とのこと。自分のことを話すし売り込みも一生懸命だけど、お願いしたことになかなか応えてくれない人とは対極的です。
アプローチするタイミングを見極める
もうひとつ。Kさんが誠実さに加えてトップセールスとしての差別化要因となる行動があります。それは「お客さんのクルマの買い替えのタイミング」を確実に押さえていることです。
お客さんとの会話の中でヒントをつかみ、経験を踏まえて、
「この収入レベル、嗜好などから考えると、買い替え時期は2年後に来るな」
と判断し、「ご無沙汰しています、お元気ですか?」と連絡を取ります。
連絡を取るときも、いきなり購入を強く迫ることなく、せいぜい「そろそろ買い替えのころだろうか」と確認を取るくらいのさりげなさ、謙虚さがいいようです。
このタイミングが絶妙だから、お客さんは「お、ちょうどいいときに連絡してくれた」と喜び、「信頼できるKさんにまた頼もうかな」となるわけです。
口八丁、手八丁になる自信がない人でも、こういった基本的なことをきちんと押さえられる人は、営業マンとして素質を開花させる可能性があるといえるでしょう。
※すばる舎から2011年12月21日、「今どきの営業マン 超育成法」発売しました。新人営業マンを「イライラしないで速攻育て上げる方法」を、30~40代のリーダー向けに書きました。
高城幸司