ソーシャルメディアで「おいしい仕事」なんてやってこない 
中川淳一郎×常見陽平対談(中)

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   「ツイッターが○○を変える」「フェイスブックがあれば××はいらない」――。そんなスローガンが掲げられ、退屈な日常に飽き足らない人たちが、何かないかと寄り集まってくる。2011年のネット界隈は、そんな熱気が感じられた。

   しかし、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏と、人材コンサルタントの常見陽平氏は、その浮ついた雰囲気に疑問を投げかける。「ソーシャルメディア幻想」はまもなく消え去り、「やっぱりリアル最強」が見直されるというのだ。

そろそろ「いいね!」を押し合うのが面倒になる

常見陽平氏(人材コンサルタント)
常見陽平氏(人材コンサルタント)

中川 就活にソーシャルメディアを使う「ソー活」って、今どんな感じなの?

常見 だいぶ話題にはなるけど、企業はまだまだ様子見というのが現実だよ。情報発信はしているけど、細かい交流までしているわけでもないし。フェイスブックを使う人が珍しかったころは、優秀な理系の学生を捕まえるにはいい手段だった。でも、いまではソーシャル使ってるからどうということもないし、以前から取り組んできたウェブ系企業も「最近はソーシャル経由の学生も無難になってきましたね」と言っていた。学生にとっては情報収集・交換の便利なツールになりうるけど、ちょっと煽りすぎな感じもするね。

中川 どっちにしろ、フェイスブックなんて誰でも使える素晴らしいインターフェイスを持ったツールなんだし、「ソー活」にいちいちコンサルティングをかませることないよな。

常見 企業の担当者は、何かあったときに責任を負いきれないから外注する面もある。でもこういうのは、自分たちなりの使い方を考えて、マジで学生と向き合わないと意味がない。それをどれだけの企業ができるのか。ソー活もそうだけど、2012年は「ソーシャルメディアの幻想」から覚める年になる気がする。ありもしない「希望」にすがってみたけれど、ウソに気づいてガッカリする人が増えるんじゃないかな。

中川 リアルな日常に飽き足らない人が、「いいね!」ボタンで自分を承認してくれるバーチャルな場に希望を見出したって、本当の希望にはならないって。

常見 有名人とつながって「友達」の数を増やした先で、自分も何者かになれるんじゃないか、と思わせるところが罪なんだ。それじゃ「社畜」ならぬ「ソー畜」だよ。そろそろ面倒になっている人もいるんじゃない? 田端信太郎さんが、バレンタインデーの義理チョコならぬ「義理いいね!」(ギリーネ)という言葉を思いついたらしいけど(笑)。

中川 人生で大事な人間なんて、せいぜい30人くらいだって。それなのに、フェイスブックで「友達」数千人とかおかしいよな。そういう人に出版社が「本を出しませんか」とか、ベンチャーが「ソーシャル担当やりませんか」とか言って近づいてくるけど、それって「友達」を購買者リストとして見ているだけだから。

常見 当初は組織に縛られない自由な働き方というポジティブな意味があった「フリーター」という言葉の価値が暴落し、ネガティブワードになってしまったようなことが「ソーシャル」でも起こりそうだね。ライフスタイル提案といっしょで、売る側がお金を使わせようとする魂胆なんだから、やすやすと巻き込まれたらダメだよ。

「断らない力」で3人のキーマンに食らいつけ

中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)
中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)

中川 オレの会社、実は今年の売り上げ、かなり多かったんだけど、それってオレをかわいがってくれる3人のキーマンに食らいついていった結果、実現できたことなんだよね。彼らとの関係に、インターネットが介在する余地なんかない。

常見 実質ひとりで稼いでるんだから、すごいよね。

中川 自分の価値を上げるために、この人たちがバシバシ仕事をくれるような男になろう、と思ったわけ。仕事をくれるのは超身近な人。ソーシャルメディアで「おいしい仕事」なんてやってこないよ。所詮人間は好きな人を大事にするワケで、職場でも学校でもいいから、3人くらいは大事な人を見つけて、その人たちとの関係を深めて気に入ってもらう方が大切だ。オレの場合、安仕事を8年もこなし続けたり、終戦後のアフガニスタンに死を覚悟して20日間取材に行ったりとか、そういうムチャ振りや苦難を「了解です!」とやってきたわけだ。そうやって厳しい条件の仕事をクリアし続けることで、「こいつかわいいな。よし、次のプレゼンに連れて行こう」「次はこいつにこの仕事を任せよう」という信頼関係が生まれるんだよ。

常見 フェイスブックのプロフィール欄に載ってるような表面的な実績じゃ、「おいしい仕事」は来ないよね。「友達」は大勢いるのに「おかしいなあ、何で仕事が来ないのかな」と思ってる人いるだろうけど、そりゃ当然だよ。

中川 当たり前だ。よくも知らない人に大事な仕事を任せるなんて、無責任だろ。

常見 デルがツイッターで何億売ったから、じゃオレもとか言ったって、あれは最初にやったからうまくいっただけだし、ツイッターで売れたのはデルの売り上げ全体の何分の1かのごく少数だよ。

中川 「断らない力」も大事だね。オレは基本、その3人の仕事は断らない。もしもそんなキーマンをまだ見つけていなかったら、来た仕事は断らずに全部受けてみるべきだ。相手はこちらの能力も分からずに「こんなのできる?」と聞いてくるわけだから、次の仕事を回してもらいたければ、とにかくガムシャラに応えてみる。そもそも海のモノとも山のモノとも分からないやつに、最初からおいしい仕事なんて回さないっつーの。

常見 でも、僕らのような「中途半端有名人」には、ソーシャルメディアは便利なツールではあるけどね。

中川 それはそう。本を出せば読者の感想を直接聞けるし、ツイッターで告知すれば50人とか100人とかのイベントは埋まる。でも、だからといって「ソーシャルメディアがあれば営業はいらない」なんて論説がまかり通っているのはおかしい。あんなの嘘っぱちだ。

常見 ソーシャルって互恵的であるはずなのに、「セルフブランディング」とか自分のことしか考えてないのも問題。相手に幻想を持たせようと躍起なのが、はたから見ると本当に恥ずかしいし、わずらわしいよね。

ソーシャルで出会い、リアルで付き合おう

「ソーシャルメディアでつながってるだけで、承認されていると思うなよ」
「ソーシャルメディアでつながってるだけで、承認されていると思うなよ」

中川 ソーシャルメディアの「友達」や「フォロワー」をそのまま人脈だなんて思えないけど、飲み友だちづくりには本当にいいツールだと思う。ツイッターの投稿をずーっと観察して、この人面白そうだな、と思って「飲みに行きませんか」とメッセージを送る。実際に会ってみて「ああ、やっぱりこの人いいな」「好きだな、素敵だな」とか感じて、自分の眼力の確かさを確認して、その人とちゃんと付き合えばいいんだよ。

常見 リアルな場でのつきあいは、何ものにも代えがたいのにね。「まずは会いに行こう」ということを言いたい。

中川 検索かけて「友達」になるのはいいけど、そこで終わっちゃしょうがない。その「友達」と何人、何回飲みに行ったの?って。

常見 「いいね!」の数に満足するんじゃなくて、出会いのきっかけが増えた中で、いい人を見つけようよ、という話だよね。ソーシャルメディアでつながってるだけで、承認されていると思うなよ、と。

中川 オレは大学で何百人、何千人の人と会い、濃密な関係を持った人もいたわけだけど、結局いまでも会うのは6人くらい。そのうち頻繁に会うのは常見1人だもんね。それだけ会って残らないんだから、ソーシャルメディアだけで出会った人のうち、本当に困ったときに誰が手を差し伸べてくれるというのか。

常見 たぶん、誰もいないのが現実だよね(笑)。

中川 博報堂にいたとき、上司の嶋浩一郎さん(現・博報堂ケトル)が1999年に「Gメン99」ってのをやろうっていってさ。「99の職種と99の合コンを目標にしよう」っていうわけ。それで夕方になるとホワイトボードに「G」と書いて合コンに行く。それでつながった人の話が仕事のヒントになったり、「スチュワーデス100人に聞きました」の調査になったり。結局、78回しかできなかったけど、そうやって人と直接つながる経験って大切だよ。

常見 リアルは情報量が多いし、一方的に話しているようでも双方向。ソーシャルメディアには、いい意味でガッカリしてもらって、「リアル最強!」に気づいてもらいたい。

中川 あと、暇なおっさんやリタイヤした高齢者の方が使うには、とてもいいツールだと思う。地下鉄で中華街あたりを通ると、昼間から酒飲んだ爺さんの集団が乗ってくるけど、あれは多分、学生時代の友だちがときどき集まってるんだろうね。

常見 若いころ、ラグビー部で殴り合いのケンカとかしたのかもしれない。僕らみたいな学生プロレスでもなんでもいいけど、リアルに濃密な関係が前提にあることが、やっぱり大事だと思う。困ったときに助けてくれるのか、一緒に泣いてくれるのかっていう。そういう人たちのゆるいつながりがソーシャルメディアでできるって、素敵なことだよね。



中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者。博報堂コーポレート・コミュニケーション局で企業の広報活動業務に携わった後、2001年に退社。「日経エンタテインメント」ライター、「テレビブロス」編集者を経て、ネットニュース編集者となる。『ウェブはバカと暇人のもの』『凡人のための仕事プレイ事始め』など著書多数。

常見陽平(つねみ・ようへい) 人材コンサルタント。リクルートでとらばーゆ編集部などに携わった後、大手玩具メーカー採用担当を経て、クオリティ・オブ・ライフに参加。実践女子大学、白百合女子大学、武蔵野美術大学などでキャリア教育科目を担当する。『「キャリアアップ」のバカヤロー』『くたばれ!就職氷河期』など著書多数。最新刊『就職の神さま』。

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