先日発表された「出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、日本の完結出生児数は、過去最低の1.96にまで落ち込んでいることが明らかとなった。完結出生児数とは、1組の夫婦が生涯で作る子供の数であり、未婚の影響を除いて世帯内の少子化の状況を把握することが出来る。
日本の出生率は70年代以降一貫して下がり続けてきたが、この数字は過去30年以上、ずっと2.2前後を維持してきた。だから、未婚こそが最大の問題であり、少子化対策の本丸だという声が根強かった。
事実、30代男性の非正規雇用労働者の既婚率は、正社員のそれの半分でしかない。正社員を増やせば、それがそのまま少子化対策になるのではないかという意見もそれなりに説得力を持っていたのも事実だ。
昭和型家族モデルを想定した制度を見直すときだ
今回、この数字が2.0を割り込んだということは、結婚促進、まして正社員化が、少子化対策のゴールとはいえなくなったという現実を示している。
かつての日本型雇用では、男性が総合職として長時間労働、全国転勤といった負担をこなし、女性は専業主婦としてサポートする役割をこなした。だから労使交渉では、妻と子供2人を養える水準を目安に、労働対価というよりも生活給を確保する色合いが濃かった。
筆者自身、労組と仕事をする中で、
「その賃金水準では子供2人を養えない」
という指摘を何度も聞いている。言いかえれば、終身雇用で守ろうとしていたのは、男性正社員が嫁と子供2人を養っていけるだけの処遇だったとも言える。
今回の数字は、そうした“昭和型家族モデル”の崩壊を意味している。
処方箋ははっきりしている。日本社会には、まだまだ昭和型家族モデルを想定した制度がたくさん残っている。いわゆる「103万円の壁」を生みだしている配偶者控除、130万円の壁を作りだしている健康保険、国民年金第3号問題。そして、男性総合職バンザイの雇用体系。
それらすべてが、特定の人に過重労働を強いるとともに、別の人たちを意図的に労働市場から締め出してしまっている。こういった昭和のレガシーを取っ払って、性別も年齢も関係なしに、働きたい人が働きたいだけ働ける社会にするということだ。
恐らく、そのモデルの中で辛うじて守られている人たちにとっては、一定の痛みを伴う改革となるだろう。また、伝統的な家族像、価値観とも相容れない面もあるかもしれない。ただ、いま変わらなければ、我々は将来、もっと痛くてもっと大きな変化に直面することになるだろう。
城 繁幸