リアルで見てスマホで注文――今どきの「ウィンドウショッピング」

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   「この間、姪っ子と買い物に行ったんだけどね」。近くの喫茶店でよく一緒になる、自営業のAさんが話しはじめました。姪御さんに新しい掃除機が欲しいとねだられ、都内の量販店へ。

「掃除機なんて、こっちは買ったこともないからさ。結構高いもんなんだな、なんて 見てたわけ。するとさ、姪っ子がスマホを出してきて、なんかやってるわけよ」

   姪御さんがスマートフォンでアクセスした先は、価格比較サイトでした。ネット通販での価格水準を、次々と調べ出したのです。

量販店めぐりの末に「今日は現金?カード?」

   ザッと掃除機を見て回り、価格を一通り調べたら、次の店へ行くと言い出す姪っ子。Aさんは、慌てて後を追いかけました。

   次の店でも同様に、置いてある掃除機を見て回り、そのたびに価格をネットで調査。秋葉原の主だった店をぐるりと回り、最後は新宿まで遠征です。

「おいおい、オレはオマエについて回る財布じゃねーぞ、ってカチンときちゃって さ。どれにするんだ、そろそろ決めろよ、って言ったんだ」

   姪御さんは「ごめん、ごめん。ちょっとお茶しようか、私が払うから」と、近くの喫茶店に誘いました。

「でよ、喫茶店に入ったら入ったで、またスマホをいじってやんの。なんだよ、掃除機ぐらい早く決めちゃえよ、って声かけたんだけど、なんか真剣な目つきでさ。そのうち、『今日って、現金払いのつもりだった?それともカード?』って訊いてくるから、何だろなと思いながら、キャッシュ持ってきてるよって言ったらさ…」

   姪御さんは、さらにひとしきりスマートフォンを操作してから、やっとAさんに向き直りました。姪御さんの手にはスマートフォン。画面には、何やら通販サイトらしき画像が映っています。

「ねぇねぇ、これにするから。さっき見てたのより1こ前の型なんだけど、機能がほとんど変わらなくて限定セールで最安だし、送料もタダだし。これにするね、いい?」

   すでに姪御さんの右手人差し指は、画面上の「注文を確定する」と表示されたボタンを押す寸前。Aさんは、一番安いならいいかと考え、了解しました。

自分のカードで買って現金を受け取る

「散々っぱら店を回ってよ、結局ネットで買うっつーのって、どうなのよ。そう思って姪っ子に訊いたら、若い子たちの間じゃフツーだってさ。スマホになってネットのサイトを見るのも楽になったから、買い物するときは、フツーにネット通販の値段も比較するんだってよ。で、その方が安いことが結構あるんだって」

   リアルでモノを見てからの「スマホ買い」とでも言いましょうか。

   少し前までは、たしかに外出してから、いちいちパソコンを見るわけにもいきませんでした。リアル店舗で値段をメモし、帰宅してからネットでの価格を比較して、なんて面倒なことをしなければならなかったのが、スマートフォンのおかげで即確認できる。

   確認どころか、スマートフォンから通販サイトへアクセスして、その場で買うことすら可能です。面白い時代になったものですね。注目を確定した姪御さんは、ホッとし た顔つきでAさんにこう言っのだとか。

「1万1570円だったけど、端数はいいから1万1千円ちょうだい。これ、私のクレカ で買ったから」

   端数ったって、たったの570円じゃねーか。Aさんはそう思ったものの、喫茶店代を出してもらってることもあるし、素直に払ってあげました。

「ありがとね、助かりました。じゃ、私はもう少し買い物してから帰るから。おじさ んは、コーヒー全部飲んでって。じゃあね」

   颯爽と喫茶店を出て行く姪御さんを見送りつつ、Aさんは「狐につままれた気分ってのは、こういうことか」と、わざわざ秋葉原から新宿まで来た意味も理解しつつ、深く感じ入ったそうです。


井上トシユキ

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井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。東海テレビ「ぴーかんテレビ」金曜日コメンテーター。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社新書)、「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文藝春秋)など。
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