人材を育てるのが難しい時代になりました。若い人たちが育ってきた社会環境は、私たちとはまったく異なります。経済環境も大きく変化しましたし、インターネットをはじめとする新しい業務インフラやツールも生まれています。
新しい現実の中で、企業はいかにして、若い人たちに力をつけ発揮してもらうか。多くの経営者が頭を悩ませています。特に最近、驚くような相談に遭遇するようになりました。それは「営業がなかなか辞めない」というのです。
励ましあって退職を止めるのはいいが
一例を紹介しましょう。食品商社のD社は、新卒で毎年20人の営業職を採用してきました。入社後、約1か月の導入研修を経て営業現場に配属し、3か月目からは実地研修を兼ねた新規営業に出します。
すると夏あたりから、「自分には無理」と脱落する社員が1割程度あらわれます。さらに翌年春までには2割以上が辞めるのが、例年の傾向です。
ところがここ数年、この状況に変化が生じています。1年経っても、退職者はゼロ。しかも仕事が辛くなってくると、同期同士がカバーしあうというのです。心が折れそうな同期がいたら「辛くても頑張ろう」と励ましあって退職を止めているのでした。
おそらく、就職環境があまりにも厳しいので、おいそれと会社を飛び出すことができない面があるのでしょう。個人としては合理的な判断ですが、会社としては微妙なところです。
高度成長期の営業は、一匹狼の個人競争で、お互いがライバル。稼げばもらえる時代でしたから、他人を気遣う必要もありませんでした。
励ましあうのが悪いとは言えませんが、1年間辞めずにやってみて、まるで売れずに終わった人が、いつか急に売れるようになるかというと、現実には難しいでしょう。
ただ、それも従来のような、高い目標を掲げてニンジンをぶら下げ、叱咤激励して競争させて、闘争心を高めるようなやり方では難しいというだけの話。今の若い人に合ったやり方をすれば、育てる道は残されているといえます。
多様化する「動機」に働きかけると伸びる
貧しい時代を経験している人は、「自分の力で生き抜かなければ、誰も助けてくれない。自分に負けたら生きていけない」というプレッシャーを抱えています。
しかし、今の若い人たちは(自覚がないかもしれませんが)経済的に恵まれた環境に育っている人が多いので、「頑張れば自分が他人より多く稼げるから頑張る」という動機づけが、昔のようにうまく働かないのです。
それでは、どうやって動機づけをすればよいのか。ひとことで言うと、「ナンバーワンを取るよう競わせること」ではなく「自分がやりたいことを実現させる」というアプローチに変えることです。
「お客様にありがとうと言われることがうれしい」
「気の利いた提案書で驚かせたい」
「人脈を広げて自分の見識を高めたい」
など、多様化している一人ひとりの志向を聞き、それを実現させる仕事の与え方、挑戦のさせ方をすると、集中力を高めるようになるものです。
ある人には「仕事ぶりが丁寧だね」と評価し、「この点は営業のここで発揮すると成果が上がるよ」と声をかけてもいいでしょう。こういったアプローチは、細かな営業トークや商品知識を教えることよりも優先順位が高いと思います。
共通して弱い「対人折衝力」
ただ、いまの若い人が共通して弱いのは、対人折衝力。「世間話で場を和ませる」「競合会社との関係を聞き出す」「無理なお願いを強いる」といったスキルは、特に注力して経験を積ませる必要があると思います。
一方、共通して高いのは、情報収集・加工能力。業界動向についてまとめさせたり、「いま僕が話したことをまとめてほしい」と頼むと、驚くほど整理された内容に仕上がってくることもあります。
基本的にまじめな人が多いので、苦手分野をつぶして得意分野を伸ばせば、昔の営業マンより活躍できる人がかなり出てくるでしょう。
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高城幸司