「ユーロの救世主」ドイツと生真面目な日本が目指す道

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   いま、世界がドイツに注目しています。ユーロ加盟国の債務危機が深刻化しており、黒字国の「優等生」ドイツが倒れてしまったら、ヨーロッパのみならずアメリカや日本を含めた世界中に信用不安の影響が及ぶでしょう。

   ユーロ圏というのは、ラテン文化の国々が、まじめで働き者のドイツを巻き込んで経済面で便宜を得ようという策略だ、という見方もできます。この関係はイソップ童話の「アリとキリギリス」にちょっと似ています。

避けられない「キリギリスへの支援」

真面目で実直、努力家で規則を守るところが共通点
真面目で実直、努力家で規則を守るところが共通点

   少し前までは世界経済は順調で、いわば夏の時代でした。キリギリス(イタリアやスペイン)はアリ(ドイツなど)からの借金などで楽しく生活していました。しかし、2008年のリーマンショック以降は一気に「冬の時代」に突入し、キリギリスは借金の返済が厳しくなってしまい、さあ大変というわけです。

   今、ドイツは難しい舵取りを迫られています。夏に遊んで暮らしていたキリギリスを助けたくないのは当然です。でも、そうかといってキリギリスがみんな死んでしまうと、今までせっせと作ったものを買ってくれる人がいなくなってしまいます。

   そうなると、結局のところ自分自身に跳ね返ってきてしまうので、最終的にはドイツが他のユーロ圏の国に対して全面的な支援に乗り出さざるを得ないでしょう。大黒柱はつらい、という事です。

   ところで、そのドイツ人とわれわれ日本人は似ている、とよく言われます。共通点としては、真面目で実直であること、努力家であること等が挙げられます。「規則を守る」というのも大事な点で、それが両国の組織の強みとなっています。信号が赤なら車が一台も通っていなくても渡らずに待つ、というのはドイツ人と日本人くらいという話があります。

   そしてモノづくりが得意で、「職人気質」という表現がピッタリきます。頑固で完璧主義で、自分の仕事にプライドをもつが、シャイで短気で、コミュニケーションが不得手。この性格のおかげで、細かいところまで手を抜かずに高品質のモノを作るため、日本とドイツの製品は世界中から高い信頼性を獲得し、それを売ることで海外から富が入ってくる、という寸法です。

   それと対照的なのが、ラテン的気質の国民です。ヨーロッパでいうと、イタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧の国々が典型です。加えてフランスやベルギーもこのグループに属します。

せめて外交力を磨き存在感アピールしたい

   彼らは歴史的遺産に恵まれ、カトリックを背景に成熟した文化をもち(美術、音楽、文学、建築、食事、ワイン等々)、社交的で、人生をエンジョイしています。イタリアはモノづくりも優れていますが、精巧で壊れにくいものを作るというよりもデザインやブランド・イメージが強みです。フェラーリとかアルマーニとかが有名ですね。

   世界が小さくなってきた今、ヨーロッパ経済の問題はあっという間に日本にも影響します。日本もIMFやEFSF(欧州金融安定ファシリティ)などを通じてヨーロッパに多額の資金を拠出しています。さらに日本は比較的状況が良いということで、円高がどんどん進んでいます。

   結局、まじめで実直な国は損をしているように見えます。一生懸命モノづくりをして外貨を稼ぎ、倹約につとめてカネをためてきたのに、他の国を助けるためにそれを吐き出さなければならない。なんだかとても理不尽に感じますね。

   どうせ世界を救うなら、ラテン系の国々の良い所を学びつつ、将来の世界における存在感を向上させたいものです。まずは製品の信頼性を保ちつつ、「趣味は仕事」というような生活から脱却し、人生を楽しまなければやっていられません。

   また、ラテン系のしたたかで口八丁な交渉力も見習いたいところです。他えばフランスは、経済力ではドイツの後塵を拝していますが、外交では全く引けを取りません。そのおかげで国民はキリギリスの位置を確保できるのですから、たいしたものです。

   とはいえ、「苦手な交渉力を磨くくらいなら、アリでもいいや」というのなら、それもひとつの道ではあるのですが。


小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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