弘兼憲史が「夢はかなう」に苦言 「早く現実を教えた方がいい」

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   「島耕作」シリーズで知られる漫画家の弘兼憲史氏による、2011年11月15日付け日経電子版のインタビューが話題だ。「夢はかなう」「願えばかなう、だから夢を持ちなさい」という言葉は、1つの考え方としては理解できるが、かなわない夢だってある現実を子どもたちに早く教えた方がいいと説く。

   基本的には「夢はかなう」と思っていた方がモチベーションにつながることは認めつつ、むしろかなわない場合が多いので「夢には期限をつけるべき」であり、自分の適性を客観的に眺めてくれる人の意見を聞くことが大事という。

芸大受験10年「あきらめた方がいい」

漠然とした「成功したい」欲求だけが大きくなる
漠然とした「成功したい」欲求だけが大きくなる

   弘兼氏は、東京芸大を10年も受験してまだあきらめない人を例にあげ、「いいかげんあきらめた方がいい」と断じ、「いつまでも夢を見続けるというのは、必ずしも幸せなことではない」という。

   一方で、自分自身は「子どものころから漫画家になるのが夢」だったが、それがかなったのは「単に夢を見続けたから」ではなく「ものすごく努力をした」からとする。新人漫画家のころは毎日16時間も漫画に没頭し、睡眠は3時間ほどしか取らなかったそうだ。

   もしそうなのであれば、10年間ものすごく努力をして芸大を目指すのも同じことでは、という気もするが、「芸大生になる」と「漫画家として生きていく」では、夢の現実感に大きな違いがあるのは確かだ。

   ネット上にも、弘兼氏の主張に共感する声が多い。

「努力しないと夢は叶わないと教えるべき」
「目標が段階を踏んでない、計画性がないから夢が叶わない」

   出版社でビジネス書を担当する編集者のA氏は、これは子どもだけの問題ではなく、いまの大人たちにも言えるという。特に、30歳前後の「自己啓発書依存症」の人たちには、その傾向が強いそうだ。

「学歴が高く、そこそこの会社に入ったんだけれども、いまひとつパッとしない人たちが、『成功したい』『愛されたい』という欲望を抱いて、成功者の法則を説く有名人の追っかけをするんです。本を大量に買ったり、高額なセミナーに参加したりしますが、自分は一向に有名にならない(笑い)。それでも彼らは『いつか夢は必ずかなう』と疑いません」

「有名人の追っかけ」で成功気分に浸る人も

   A氏の分析によれば、有名大学を出た彼らは、コツコツ勉強していれば社会で成功できると信じているという。世の中で名を馳せるには、下積みに耐えてスキルを磨いたり、大胆な行動力で自己主張したりすることも必要だが、そういうことには手を染めようとせず、

「これであなたも成功する」「こうすればうまくいく」

と呼びかける人たちにフラフラとついていく。そしてツイッターやフェイスブックで彼らの「友だち」となったつもりになり、追っかけとなって搾り取られてしまうというのだ。

   ビジネス新書の執筆経験のあるライターのB氏も、これに同意する。

「彼らは基本的には生真面目で、『他責(たせき)にしない』という言葉が好き。会話にも『学びがある』『意識が高い』『加速し続ける』といった独特の言葉遣いが出てきます。しかし、的を絞った努力するわけでもなく、個別の問題に強い当事者意識もない。単なる傍観者であり、消費者であることに気づいていないんです」

   B氏はその一例として、アマゾンのレビューをあげる。「夢」「必ずかなう」などで検索すると、

「目からウロコの○○術です。なんだか私も成功した気分」

といった書き込みが見られるそうだ。成功者の話を聞き、本を読んだだけで、夢に向かって努力し達成した気になってしまう…。これでは子どもに現実を教えることはできそうにない。

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