「所得税増税」は誰が負担することになるのか

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   復興増税の一環として、どうやら所得税の引き上げが実現しそうだ。一律で4%程上げるそうだから、最高税率は44%、地方税込みで54%以上にものぼる。最高税率が適用される所得1800万以上のお金持ちは、稼ぎの半分以上を持っていかれることになる。

   「ざまあみろ!」と留飲を下げている庶民もいるだろう。ひょっとすると「これで小泉改革の結果、行き過ぎた格差社会を是正できる」と喜んでいる人もいるかもしれない。

税金を半分取られる富裕層はほとんどいない

   でも、ちょっと冷静に考えてみて欲しい。今、周囲に所得1800万円以上稼いでいる人がいるだろうか。各種控除を入れると、年収ベースでは少なくとも2000万円以上は必要だ。

   ちなみに民間最高給企業と言われるフジテレビでさえ、年収は1600万円ほど。普通の大手と言われる企業の正社員でも、平均は7、800万円くらいだ。普通のサラリーマンで2000万円という所得はまずありえない。

   ちなみに、年収1500万円以上の給与所得者は全体の1%、給与総額に占める彼らの給与の割合はたった6.4%に過ぎない(「民間給与実態調査」平成21年度分より)。ここをいくらいじったところで、焼け石に水である。

   「自営業で羽振りの良い人はいる」という人もいるだろう。でも、自営業者や中小企業のオーナーはいろいろ調整して、そういった税率にならないよう工夫しているはず。というか、きっと羽振りの良いのはその“工夫”のためであって、所得自体はごくごく平凡なケースが大半だ。

   というわけで、大企業の役員や一部の外資系企業社員を除けば、収入の半分以上を持っていかれて嘆き悲しむ富裕層なんていうのはフィクションである。

   ここで疑問が残る。じゃあ、必要な復興費用の11兆円は、一体だれが負担するのか?さきほどの「給与実態調査」の分布状況を見れば一目瞭然。給与金額の多いボリュームゾーンを上から順に書き出すと、以下のようになる。

1位:300~400万円、15.6%
2位:400~500万円、15.1%
3位:500~600万円、12.2%
4位:200~300万円、10.9%
5位:600~700万円、 8.7%

   まあ300万円以下は例外としても、年収500万円前後の「割と普通のサラリーマン世帯が中心となるはずだ。政府税制調査会の委員長である神野直彦氏も「最高税率というのは象徴であって、実際の負担はその下のボリュームゾーン」という点は認めている(インタビュー「消費税と所得税はクルマの両輪」:『週刊ダイヤモンド』2010.7.10号)。

やっぱり消費税増税の方が公平だった

   確かに、ネットでは気軽に「僕が何をしたって言うんだ!」と嘆き悲しむ最高税率適用者も見て楽しむことができるご時世だが、そういうのはガス抜き用のアドバルーンと思っておいた方がいい。政府が

「復興に必要な〇兆円を所得税中心でまかないます」

という時に、その大半を負担するのは、ごく普通のサラリーマンである。

   そもそも、日本人は「一億総中流」とか「格差のない平等な社会」なんてものを売りにしてきたわけで、実際金持ちを作らないための規制だらけの国である。それをいざ増税という段になって、いもしない幻の金持ちにすべて背負わそうとするのは、少々虫がよすぎるだろう。というわけで、サラリーマンの皆さんは頑張って負担してくださいね。

   ただ、これが果たして公平かといえば、疑問は残る。現役世代でリタイヤ世代を支えるという、かつてこの国が若者であふれかえっていた頃の税制で、これからの少子高齢化時代をやっていけるのか。

   そして、そもそも「とりやすいから」という理由だけで、ガッツリ補足可能なサラリーマンから取ってしまってよいのか。いろいろと論点は残ったままだ。

   やはり個人的には、高齢者やニート、生活保護受給者、そしてアンダーグラウンドな方々からも消費に応じてまんべんなく取れる消費税がおススメな次第だ。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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